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第14話
「失礼します。」
子供を作ると溢れ出るほどに俺に注いだ後、一は仕事だと言って部屋から出て行った。
その一と入れ替わるように沢が静かに部屋に入ってきた。
一のいない二人きりの部屋。自然に二人の手が重なる…事はなかった。
「首を治療しますので、こちらにお座りください。」
俺の差し出す手を無視して、ベッドから離れて沢がテーブルの椅子を引く。
「どうか、こちらに。」
沢が俺を見ないまま、再び言う。
あぁ、もう元には戻れないんだな。番となるところを見せられ、後継者としての全ても無くした俺なんか、沢にとっては何の価値もないんだ…
悔しくて、流れ出そうになる涙を腕で拭くと、動かない身体を腕で支えて起きあがろうとする。しかし、腕に思いのほか力が入らず、ベッドの端にかけた手がずり落ち、体も一緒にベッドから落ちた。
「全様っ!!」
「触るなっ!!」
バンと扉が開き、一が部屋に大股で入ってきた。
「何をやっている?」
静かな、しかし唸るような低い声に身震いする。すかさず沢が答えた。
「全様が…」
「お前じゃない!!」
大声に耳がキーンと音を立てる。
呆然としたままでベッドの下に座り込んでいる俺に一が近付くと、ぐっと腕を掴まれてベッドに放り投げられた。
「一様っ!!」
「なんだ?沢。俺に何か言いたいことがあるのか?」
「全様が痛がっています…どうか医者に…」
「痛がっているか…?俺にはお前を誘うための小芝居に見えたけどな…こうやっていまだにお前を誘おうとする全。なぁ、少し仕置きが必要だと思わないか?」
そうだろうと一が沢を見る。
「お前だってこんな風に主人の番いに誘われても困るだけだもんなぁ?沢、必要だろ、仕置き。」
主人という言葉に自分の今の立ち位置を再確認した俺が、絶望の目で沢を見た。
視線の合った沢が俺の裸の姿に喉を動かす。
「沢!必要か?」
有無を言わさない一の声に沢が俺から視線を外し、絞り出すように言った。
「必要…です。」
「やだ!沢!!やだぁ!!」
仕置きという言葉と共に近付く一。
ベッドの上を這いずるもどこにも逃げ場はない。
「沢、捕まえておけ!」
ビクンと沢の体が動き、すみませんと謝ると俺を後ろから抱くように羽交い締めにした。それでもひさしぶりの沢の匂いに包まれ、沢の鼓動と息遣いに俺の体が熱くなっていく。
「沢に抱きしめられて、こんなにしてるのか…っざけるな!!沢!全の足を持ってろ!!」
訳も分からず沢が俺の足を持つと、一が俺の足首をぎゅっと持ってニヤリと笑った。
それがあまりにも恐ろしくて、俺はそれまでの幸せな気持ちが一気に恐怖に変わり、必死で身体を捩る。
「おせえんだよ…沢、すぐに医者を呼べよ!」
そう言った一の手が俺の足首をついてる方とは逆方向に一気に捻った。
「いあああああああああああっ!」
絶叫がこれでもかというくらいに出た。驚いた沢が俺から手を離して医者を呼びに廊下に駆け出して行った。
「あ、ごめ…なさい…一…許し…やぁあああああああああああっ!!」
許しの言葉は届かず、一の手がもう片方の足首を掴んだ。
逃げたくても痛みと恐怖で動かない身体。震えて涙を流しただ謝罪の言葉を並べる。
それでも一は俺に笑いかけ、遅いんだよと言って再び力を入れた。
絶叫に喉は枯れ、痛みに痙攣する身体を抱きしめられて、逃げる自由すらもなくなった身体を俺は遠くから眺めていた。
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