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第17話

それからも沢の態度に特に変わりはなく、ただ一のいない時に数枚の布がテーブルの下に落ちていることが度々あった。 俺はそれを拾い上げると、一にバレないようにすぐにマットの下に押しやる。 一が1日いないとわかっている日には、それを数枚取り出し、俺は沢の匂いに包まれ幸福の中で何度も果てる。 そうして眠っている間に沢がいつの間にか俺のところの布を入れ替えていく。 そうする事で、俺はいつでも沢の匂いを強く感じることができていた。 そうやって数週間が過ぎた頃、俺の身体に微かな異変があらわれた。沢の匂いのする布を一がいるにも関わらず、自分の側に置きたくてたまらない。初めての我慢できない衝動に困惑した俺は、どうにもならずに一のいない日、沢に声をかけることを決心した。 「沢っ!俺、困っているんだ…聞くだけ聞いてほしい…お前が落として行った布…あれを自分のそばに置いておきたくて…一がいるのに、取り出して置いておきたくて…なんだか分からないんだけど…どうしても我慢ができなくて…俺、どうしたら…?」 なんの反応も示さない沢に、苦しく重い時間が過ぎていく。 「ごめん!忘れてくれ…」 そんな空気に耐えきれず、ついに俺はそう絞り出すような声で言うと、沢に背を向けるように寝返りを打ち、目を瞑った。頬を暖かい筋が流れていく。 ギシっとベッドが何かの重さで軋んだ。 「え?!」 振り返ろうとした俺を沢の声が止めた。 「動かないで下さい!もう少しお待ち下さい。私があなたとの子を作ります。だからそれまで、どうか我慢して下さい。よろしいですね…愛しています、私の運命。」 首筋に唇が押し当てられ、俺の体がビクッと跳ねる。 「沢ぁ…俺、我慢するから、だから早く、俺を早くここから…」 「分かっています。全様、もう少し、もう少しだけ我慢して下さい…失礼します。」 パタンと扉の閉まる音。 すぐに起き上がり、うなじに手を当てる。 俺と沢が子供を作る…一の時には感じ得なかった幸福感と希望に心が久しぶりに明るさを取り戻す。 我慢して下さい… 沢の言葉に大きく頷く。 我慢するから、待ってるから…沢、早く俺を沢のものにして! 薄く開いた扉に気がつく事なく、俺は嬉しくて沢の名を何度も何度も呼んでいた。

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