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第18話

「全、しばらくの間、父さんの命令で出かけてくる。」 いつものように俺の中に自分の欲を吐き出し、うなじに歯を立てて満足した一が、俺に腕枕をして抱き寄せると言った。 「しばらく?」 「多分1ー2週間くらいだな。挨拶回りだとさ…」 後継者としての…か。 もう、全てを諦めたつもりでいたが、やはり心がちくっと痛む。 「全、俺がいない間にヒートが来たら、いいか、誰もこの部屋に入れるな!沢もだ。内側から鍵をかけ、そのための食料は置いて行く。後、薬もだ…いいな?絶対に誰も入れるんじゃねぇぞ!」 そう言ってぎゅっと抱きしめる一の言葉を聞き、分かったと頷きながらも、もう少しで俺は沢に抱かれ、沢との子を作る時期が近付いているという事実に鼓動が早くなる。 次の日、一は再び俺に念を押し、俺が大きく頷くのを見て満足そうに言った。 「お前を信用しているよ、全。裏切ることのないように…その時には…分かっているよな?」 ドキッとしながらも沢とのことで頭はいっぱいで、早く行ってほしい気持ちで分かってるよと頷く。 「そうか…じゃあ、行ってくる…」 一が微妙にニヤッと笑ったような気がしたが、沢の顔が浮かび、些細な事だと気にすることなく送り出した。 「ようやく…これでようやく俺は…」 扉を叩く音。 「誰?」 高鳴る鼓動を大きく息を吐いて静めながら尋ねる。 「全様…一様は?」 「いない!沢、沢、早く来て!!」 まだ痛みの残る足を引きずりながらベッドから扉に向かう。 「全様っ!危ないっ!!」 薄く開けた扉から沢が俺の事を見て、急いで入ってくると、転びそうになった俺の身体を支えた。 「沢!沢だ!俺の沢!!」 「全様…まずはベッドに行きましょう。そこでお話ししたいことがあります。」 俺の事を両手で抱き上げてベッドにそっと置くと、沢は脇に立ったままでじっと俺を見つめる。 「沢?」 「全様、ヒートは来ましたか?」 いきなりの質問に驚くが、いいやと首を振った。 「そうですか…全様、私は旦那様に言われて、こちらに来ています。」 「父さん?」 思いもかけない話に耳を疑う。 「はい。一様に乞われて子作りの許可を出したものの、やはり兄弟の間にと言うのを旦那様はずっと悩まれ、私に一様よりも先に全様を抱いて子を作れと命じられたのです。たった一回のチャンス…失敗するわけにはいかないのです。」 「沢?」 苦しそうな表情で俺を見る沢に手を伸ばす。 しかしそれから逃れるように沢が体を動かした。 「全様!ヒートまではどうか私に触れないでください!あなたの匂いは嗅げない私ですが、あなたを今でも運命だと、そして番になりたいと願う私です。あなたに触れられればそれだけで、我慢が全て吹き飛びあなたを抱き壊してしまう。しかし、この我慢して濃くなった物をヒートとなったあなたに注ぎ、私との子を作らなければなりません。だからどうか私に触れず、ヒートをお待ち下さい!」 実のところショックだった。一がいなくなったのだから、俺はずっと沢に抱いてもらえると思い、心も身体もそのつもりですでに熱くなっていた。 それが、ヒートになるまではお預けだと言われ、正直、この火照った身体をどうしたらいいのかと途方に暮れた。 それでも、それも全てが俺と沢の子供を作るためだと言われ、俺は渋々頷くしかなかった。 「分かった…けれど、ヒートって何時ごろ来るんだ?」 今まで、俺の体のことは全て沢に任せていた為、全く考えずに暮らしていた。 そんな俺の言葉に沢が苦笑しながら、もう少しですよと答えた。 「もう、巣作り…私の匂いのついた布をそばにおきたいと言ってましたよね?それが巣作りです。私にはもうあなたのヒートの匂いが分かりませんので、一様よりも早くその時期を知りたくて、布を落としていたんです。」 へぇと俺の感心したような顔を見てふふっと笑うと話を続けた。 「巣作りが始まると約2、3日後にヒートが来るのが一般的ですが、全様はずっと薬でそれを管理していましたので、少しずれが生じるかもしれません。ともかく、ヒートが来るまではどうか我慢を…お願いします。」 そう言うと沢は一礼して扉から出て行った。 いつもよりも近くで強く匂っていた沢の香り。下半身に伸びる手を押さえて反対側の手でぎゅっと握る。 沢も我慢してるんだ… 無理矢理目を瞑って眠気を待つ。 あと少し…あと少し… 火照る身体に言い聞かせるように呟きながら、眠りについた。

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