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第20話

「い…ち…?」 「一様!?」 俺と沢が同時に名を呼んだ。 それを俺を無視して一は扉に片方の肩を寄り掛からせ、沢の方に視線を投げた。 「何をしている?」 「私はっ!!」 「何をしているんだ?!」 怒号に沢の動きが止まった。 「大方、父さんの仕業だろう?番持ちのヒートに他の人間をあてがうとはな。沢…分かっているよな?その意味がわかっていて、全に手を出したんだろう?!」 扉を沢の時とは比べ物にならないほどに大きな音を出して閉めると、一がベッドに大股で近付き、それを見た沢が俺から離れてベッドから降りると、床に座り込んだ。 「一様、お許し下さい!私は命じられれば拒否のできぬ身。どうか、お許し下さい!!」 「…そうだな…お前は父さんに命じられただけだもんな…じゃあ、今回はこれで勘弁してやる…よっ!!!」 グチャッという何かが潰れた音。それに続く沢の絶叫が響き、一が扉に向かって入れと大声を出した。 すぐさまいつもの医者が車椅子を押した看護師を伴って入って来る。 「片方だけだ…潰したのは…治療してやれ!」 一の言葉に沢を見ると、二つあるうちの一つから血が出ているのが見てとれた。 体を震わせ、痙攣したままの沢の体を医者達が無言で車椅子に乗せる。 「おい!」 一が落ちていたタオルケットを車椅子に向かって投げると、看護師が一礼してそれを受け取り沢の体にかけると、医者を残して先に部屋から出て行った。 「診てくれ。」 一が俺に向かって顎をしゃくる。 はいと医者が俺に歩み寄って来る。しかし、俺はそれすらも怖くて、ベッドの上を這いずり回った。 「やだ…触らないで…やだ…やだぁ!!」 医者が困った顔で一を見る。 「…仕方ないな。」 そう言って一が俺に近付き、ベッドに上がった。 「来い。全、来いよ。」 腕を広げ、俺の名を呼ぶ。 何も考える事なく身体が動いた。 「一ぃ!!」 一の胸に擦り寄り、その安心感に体の熱が戻って来る。 「一ぃ!!熱い…熱いよぉ!!早くシて!!ねぇ、いちぃ!! そんな俺を苦笑混じりで眺めながら、どうだ?と医者に聞く。 「完全にヒート状態です。」 「それで…?」 促された医者が重々しく頷いた。 「妊娠可能です…しかしっ!一様、あなた方は兄弟…医者として私は…それをお止めします。」 「分かってる…だが、俺はこいつと子を作る。お前には不本意だろうが、その時にはこいつのことを頼む。」 「…分かりました…それでは、失礼します。」 医者はそう言って扉から出て行った。

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