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第22話

最悪だ… 何もかも忘れていたらどれだけ良かったか… あんな甘ったるい声で…あんな風に一の名を呼んで… しかも、愛し…あぁあああああああっ!! あれは俺じゃない!! あれは、あんなのは俺じゃない!!! 一の体液によってヒートの治った翌朝、俺はその全てを覚えていた。 一への想いも、沢の裏切りも、父さんの仕打ちも…その全てを俺は一つ残らず覚えていた。 そして、あの時聞こえた赤子の声…。 昨日の今日だと言うのに、俺はすでに自分の中に命が宿っていることを何故か実感していた。 …どうしよう… 一との子供…この子に罪はない…分かっているんだ。 それでも…産めない!産みたくない!! 嫌だ!! ズクンと腹が動いた気がした。 ゾッとする…自分の中に宿る命に。 それも一との… やっぱり無理だ…沢に!…いや、あんな状態ではいつ復帰できるか分からない…それ以前にあんな風に裏切られた沢にはもう頼れない…どうしよう… しばらく考えて、ふと昨夜の医者の言葉が頭をよぎった。 明らかに俺達の子作りを否定していた…ならば、俺が頼めばこの子を流してくれるのではないだろうか? 早い内なら体への負担も少ないだろうし、何より一に気がつかれずに済むだろう… だが、どうやって医者にコンタクトを取れば…そう言えば言うことを聞かなかった俺に一が仕置きをすると言っていた。 俺の両手首と両足首を折ると… 前回の痛みを思い出して身震いするが、それでもその治療の為に医者が呼ばれる。そうすれば、一に気が付かれずに頼めるのではないだろうか? そう考えて、これから行われる事による痛みよりも、医者に子を流す事を頼めると言う希望に心が少しホッとする。 「ごめんな。」 腹をさすって、生まれて来ることのできない子に謝る。 「もしもお前が一との子じゃなかったら産んでやれたんだけど…ごめんな。」 気が付くとつーっと頬を温かい物が伝い落ちていた。 一度こぼれた涙は止めることができず、子への謝罪の言葉を呟きながら、俺は静かに泣き続けた。

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