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第24話
ガチャガチャと何かがぶつかる音を鳴らすワゴンと共に医者が再び部屋に戻って来た。
ベッドに近付くにつれ見えてくる、禍々しく不気味な形をしたそれらに、俺は一に背中から羽交い締めとなるように抱かれながら青ざめた顔で見ていた。
その後ろから入って来る点滴台と、それを頼りにゆっくりと歩く沢の姿。
「一様…」
一と俺のいるベッドの前で、あられもない格好の俺を見る事なく一に話しかける。
「…申し訳ありませんでした。」
深々と頭を下げた沢に何も言わないままの一。医者も昨夜の事態を知っているからこそ誰も口を開けずに、頭を上げるのも難しいくらいの重たい空気に、一以外の皆が体を潰されそうになっていた。
「点滴は?」
それを一の口が開いた事で、空気の重さがほんの少し緩和した。
「出来ます!」
「次はない…いいな?!」
一の威嚇する大声に沢の体が大きく跳ねてから、自分の顔を上げて一を見ると、大きく頷いた。
「分かっています。」
「…おい、始めろ!!」
医者に向かってそう言うと、医者がはいと頷いて俺に近付く。
嫌だといくら拒否しても誰もそれを聞いてくれることはなく、俺の身体に皆で黙々と器具を取り付けていく。
骨折して動かぬ手足にはベッドに取り付けられた鎖と繋がれた拘束具が取り付けられた。少し余裕のある手の鎖に上半身を起こすことは可能で、もっと厳しい拘束を想像していた俺は少しほっとした。
しかしそれも束の間、最後に取り出されたそれを見て、羽交い締めにする一の顔を涙目で見上げる。
「一…なんだよ?なんだよ、これ?!」
俺の顔に近づく物体に頭を振って必死に拒否する。
「沢!頭を押さえろ!」
「はい、一様。」
顔に被らせられたそれは、舌と歯が合わないように口の中が少し開くような仕様になっていて、これが点滴が必要な理由なのかと理解する。
こんな風に開けも閉めできない口では、水くらいなら飲めても食べ物を受け入れるのは困難。
出産するまで、このままと一は言っていた。
「ひちぃ!ひゃめろぉ!!ひゃだぁ!!」
「全、それいいな。うまく喋れずに涎を垂れ流して…すげー可愛い。」
うなじに唇が当たり、歯の感触が皮膚を突き破る。
「ひゃぁああああああっ!」
「一様っ、点滴の針が入りませんので、おやめ下さいっ!!」
医者が一の行為がそれ以上激しくならぬように釘を刺す。
「分かったよ…おい、まだか?!」
「もう少し…全様、抜けたり点滴がなくなりかけた時にはこの紐を引っ張ってください。」
「ひょれ?」
「そうです。これを引っ張れば沢さんか常駐している看護師がすぐに参ります。一様…一応トイレの準備もして…」
「それは俺がやる…俺がいない時は我慢させておけ!」
「ひちっ!?」
まさかトイレも本当にあの時の言葉通りにするとは思わず、俺は驚きと恐怖に目を見開いた。
「これも仕置きの内だ…おい!もういいんだろう?!」
医者が看護師と片付けながらはいと頷く。
「だったら、さっさと出て行け!!まぁ、俺とこいつの抱き合う姿を見たいってんなら話は別だがな…」
「私にはそんな趣味はありませんよ。沢さん、こちらの杖をどうぞ…」
ずり歩く沢にワゴンに置いてあった杖を手渡して、看護師にワゴンを渡すと、それではと言って扉から出ようとした医者が思い出したように足を止めてこちらに向き直った。
「一様、すぐに点滴の針が抜けたなどと言わないでくださいね。まだ全様の身体はヒートから完全には抜け切ってはおりません。どうか無茶しませんように…」
そう言うと、ようやく扉の前で合流した沢の腰を支えながら、一礼して二人で出て行った。
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