28 / 106

第28話

「おい、朝食の準備をさっさと進めておけ!少し、父さんの所に行ってくる。」 荒い息をついてベッドで大の字になっている俺に布をかけ、一は裸にガウンを羽織ると扉を開け、廊下で待機していた沢にそう命じるとそのまま部屋から出て行った。 「失礼…します。」 沢が俯いたままで部屋に入って来ると、俺をチラと見てすぐに食事の準備を始める。 それが終わると一瞬ためらってから深呼吸をしてベッドに近付いて来た。 ワゴンに置いた点滴の袋を手に取ると、失礼しますと乾いた声を出して俺につながる点滴と交換していく。 それをじっと見ながら俺は声をかけるタイミングを見計らっていた。 沢も何かを言いたそうだが、二人の気が合わず時間だけが過ぎていく。 カチャンとワゴンに必要のなくなった点滴の袋を乗せて、諦めたようにため息をつきながら沢が踵を返そうとした瞬間、俺は焦るように名を呼んだ。 「沢!!」 ビクッと立ち止まったままで振り向かない沢の背中をじっと見つめる。拘束されていなければすぐにでもベッドから飛び降りて、その背中に縋りつきたい。 あんな風に裏切られても俺の心はやはり運命の番である沢を求めていた。 手を伸ばして掴みたいのは一との穏やかな時間ではなく、どんなに辛く苦しい時間でもそこに沢がいるそれ。 「沢!!こっひを向いて!俺を見てよ、沢!!」 「できません!私はあなたが恐怖を感じると分かっていて、あなたに手を出そうとした!」 苦しそうに声が震えている。 「ひょれは父さんの差金だったんだろう?沢は悪くない!!」 俺の言葉に違いますと頭を激しく振る。 「旦那様のご命令がなくても私はあなたを一様から奪い取りたかった。あなたが怖がると分かっていてなお、私はヒートであるあなたを抱いて子を作り、自分のものとしようとした。」 沢が俯いたままで振り返り、ベッドに近付いて来た。 「沢?」 ベッド端まで来た沢の手が俺にかかっている布を空中に投げると、それが床に音もなく落ちた。 「全様…ここに一様との子がいらっしゃるのですね?」 そう言って手が伸びる… 「ひあっ!」 沢の冷たい手が腹に触れて声が出た。 「ここに…ここに…」 ググッと沢の手に力がこもり俺の腹を押していく。 痛みと恐怖にただ沢をじっと見つめるだけの俺に、沢が微笑んだ。 「沢…?」 「冗談ですよ…一様が戻られてしまいますね?」 そう言いながら落ちた布を両手で持つと、埃を落とすようにパンとはたいて、俺の体にかけた。 「私は諦めていません…一様に土下座しても、その靴を舐めようともあなたの側を離れません…いつかあなたと…全様…」 そっと唇が合い、静かに離れていく。 「沢!!」 もっと欲しいと騒ぐ身体が沢の名を叫ぶ。 「…失礼致します。」 踵を返し、俺の呼び掛けを背中に受けながら、沢はそっと扉を閉めた。

ともだちにシェアしよう!