32 / 106

第32話

次に起きた時、俺は全く見知らぬ部屋にいた。 高い天井をじっと見つめていると、いきなり見知らぬ顔が俺を覗き込んだ。 「誰?」 「一様!全様が起きられましたよ!!」 「うるせぇ!全が驚いているだろうがっ!!お早う、全。」 合わさる唇…と共に、付けられた口への拘束。 「ひち…取って!こひぇは嫌だ!取って!!」 「ごめんな…でも、やっぱり俺は臆病もんだからさ…それに…全はすぐに騙されちゃうし…な?」 微笑みの中に今までとは違う異質な光。ゾクっと背筋が震える。 「さて、一様。そろそろ私を全様に紹介して頂けると有り難いのですが…?」 「あぁ…これから俺達の執事としてお前の身の回りの世話もする沖だ。」 「沖?」 「はい、全様。どうぞこれからよろしくお願い致します。」 一礼して挨拶をすると、俺の腕に繋がる点滴を慣れた手つきで替え、再び一礼して部屋から出て行った。 「ひち、皆は?」 「さぁな?俺達の後ろであの家は灰になった。そこに誰がいて誰が居なかったか、俺は知らない。逃げ出していれば、またどこかで会えるかもな…運命の番に。」 「ひちっ!!」 「俺はもうお前を信じはしない。俺は運命の番を馬鹿にしていた。番にさえしてしまえば、そんなものは関係ないと思っていた…」 自分の心の移り変わりを思い返して声が詰まる。 「でも違っていた。どんなに強く想い合っていても運命の番はそれを簡単に飛び越えて、Ωの心を連れ去って行く。俺は今度の事で嫌というほどにそれを思い知らされた。だから全、俺はお前を信じているが、運命の番のいるΩのお前を信じはしない。お前の心を拘束できない代わりにその身体を拘束して俺を安心させてくれ。全、頼むよ。」 それはお願いではなく命令。一の目が俺をじっと見つめるが、そこにあるのは優しさではなく支配者のそれだった。しかし俺はそれに心震え、ゾクゾクと身体の内から寒気が湧き上がり、嫌だと言っていた拘束を一の指でなぞられると痙攣するほどに高ぶる身体を抑えきれず、腰が揺れ動く。 「ひち…俺を…もっとお前で、お前だけでひっぱいにしてくれ!俺に何も考えさせないで…俺の心からお前以外の皆を追い出してくれ!俺はもうお前だけでひい!お前じゃなきゃ、俺はもう…熱くなれなひ…んだ。」 「全っ!!それでも俺はお前を、Ωである以上はお前を信じない!それでも俺と番のままでいてくれるのか?」 「ひい!ひちがひいからっ!俺の心も身体も沢じゃ熱くならないんだ…心は動ひても、熱くはならなひ!掴んだ手を俺がどんなに苦痛の声を上げても掴み続けるお前じゃなきゃ…っ!」 唇が合わさり、既に拘束されている両手首を一が掴み上げる。 「ひぃぃぃいいいいいいいいっ!!」 「もげたって離さない…お前は俺のモノだ。なぁ、全?」 「あぁああああっつ…いぃ!ひち!熱くて痛くて…っと!もっと俺を熱く…してぇ!!!」 一の手に力が入り、俺の身体が仰け反る。舌が身体中を這い、噛み跡が一の所有物の証のようにあちこちに付けられていく。 うなじに一際強い力で噛み跡が付けられ、痛みと血が溢れ出す。 「全、俺の運命。俺は負けない…お前に運命の番が近付いても、俺はお前を、お前の心を渡さない。だからどうか全、俺をもっと受け入れてくれ!その奥の奥、お前の誰も入ったことのないその奥まで俺を受け入れてくれ!」 一がいつもよりも深く俺を抉る。俺も畝りが一を奥へ奥へと導き、止められない。 「くぅああああああああっ!!!あっ!はぁあっ!!」 その時、ビクッと腹が動いた。 「ひちぃ!らめ!らめだって!!」 「どうした?」 「お腹が、やめてって動いた。」 一の腰が止まる。 どんなに俺が痛みに苦しんでも掴み続けた手は離さず、腹に手を当てる。 「悪かったな…無理させた。お前に無事に産まれて来いって言いながら、ダメな父親だな…すまなかった。だがな、お前ももう少し踏ん張ってくれよ…俺たちの愛はお前を強くするはずだ…だから、な?」 「ひち、ムリ言わないの!」 ペチンと一の額を叩くと、一が嬉しそうな顔で俺の額に唇を当てる。 「分かったよ、全。そうだよな…無理はこの子が産まれたらいっぱいしような?それまでは、我慢…な?」 「…無理しかしてないくせに…でも、ひちの無理…いいよ。だから…ひぁあああああっ!!」 急に動かした一の腰に身体も声も揺れ、熱が拡散していく。 それが一点に集まり、沸騰しそうなほどに血液が脈打つ。 痛みも快楽も何もかもを全て混ぜ合わせて、一が放った熱に押し出されるように俺も熱としてそれらを放った。

ともだちにシェアしよう!