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第39話
「んん…ひちぃ、こえとっへぇ!ひちぃ、あぁああああっ!らめぇ!っくぅ!奥は…ひちぃ!!」
結局は手首も足首も折られ、再び口に拘束具を付けられた俺は、点滴をつけた生活に戻った。
あの時、もう一しか俺を熱くできないと言った俺の心は、沢に会った瞬間に全てが一瞬にして沢への想いに変わった。
俺はまるで自分の中に一を愛する俺と沢を愛する俺の、二人の俺がいるように感じていた。
「一様、ヒート状態を保つお薬を全様に投与しませんか?」
そんな俺の事を一が沖に相談したらしく、ある日、沖が俺の点滴を変えながらこう言った。
「ヒートのままにし続けるってことか?」
一の目がキラッと光り、ベッドに座って俺の頭を撫でながら身を乗り出した。
「確かにヒート状態なら、全の心は番である俺のことしか考えられず、他のαに対して恐怖を感じる。それは運命の番である沢に対しても同じ。」
そうですと沖が頷く。
「ただし、ヒートはΩにとってかなりの体力を消耗します。その性欲を満足させる為にαである一様にも相当な…」
「それはかまわねぇ。俺はそっちは有り余っているからな。本当は毎晩、夜通し抱いて抱き潰したいくらいだが、流石にそれは全の身体が参っちまうだろうって我慢してるくらいだ。ヒートの全を満足させるくらい訳ねぇよ。」
なぁと俺の頭を撫でていた手が背中に回る。
「んっ!やめ…っ!」
ごほんと沖の咳払いに一の手が止まり、そろそろと頭に戻る。
「それで?」
一が先を促すと、沖がこちらですと注射器を取り出した。
「まずは自然なヒートの時と同じように一週間試して、全様の状態を観察します。私もαですので、全様にとっては恐怖の対象となり得ますが、そこは慣れていただくしかありません。多分ですが、私がそのような対象ではないと理解していただければ、恐怖も少しは緩和されるのではないかと…」
沖の話を一が繋ぐ。
「全、どうだ?お前がお前の心で悩まぬようにヒート状態を続ける。俺はいい考えだと思うが、お前はどうだ?」
確かに、ヒートの時の俺は一の事しか考えられず、その他のαに対しては、あんなにも愛しく感じていた沢に対してすらも恐怖対象でしかなかった。
だが…
「恥ずかしいんだ…」
呟いた俺に、キョトンとした顔をした一がすぐに笑い出す。
「ヒートの時の全は素直で可愛くて…エロくて…最高だもんな?」
「言うなっ!」
真っ赤な顔で横を向く俺の顔を自分に向かせると、一が沖にそのままで入れろと言った。
「ひちっ!まだ俺、準備が…」
「いらねぇだろ、準備とか気持ちとか…お前の全ては俺が決める。沖!」
俺を見つめる目にいつもとは違う支配者の迫力。αのΩに対する支配欲が強く表れた時に一はこの目になる。
「了解しました。全様、失礼致します。」
腕にちくんとした針の痛み。じゅわっと腕に感じる液体の冷たさ…しかしそれはすぐに全身を熱くさせ、自分がヒート状態になった事を嫌でも感じる。
「はぁ…はぁ…あぁああ…はぁああ…」
呼吸が速くなり、甘い吐息がこぼれていく。
「すっげぇ、いい匂い。全、お前の俺しか嗅げないお前の匂い…最高だよ、全。」
「熱い…身体、熱い…助け…て。ひちぃ!」
繋がれた手を精一杯伸ばして、一に抱きつこうとする俺を待ってろと言うように手で制しながら一は上半身の服を脱ぎ捨てた。
「一様、点滴に薬を注入しました。外れた時にはすぐにお呼び下さい。それと、ヒート時にはαの精液で落ち着きますが、今回はそれはありません。全様自身では抑制は困難ですので、一様…お子様方を大事に思うならば、無理はさせませんように。何かありましたら、お呼び下さい…それでは。」
早く出て行けとでも言うように手を振る一に沖が一礼をして部屋から出て行った。バタンと閉まった扉が合図のように、下半身の服も脱ぎ捨てた一が俺に覆い被さってきた。
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