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第40話
「ひちぃ!ひちぃ!」
必死に一の唇をせがむ俺に、わかってるよと笑いながら舌を出す。
「ほら、これが欲しいんだろう?」
舌で俺の鼻をぺろっと舐めると、そのまま唇まで降りてくる。我慢できずにそれを捕まえようとパクパクと口を閉じたり開けたりして出した俺の舌を、逆に一に甘噛みされて甘い声が出た。
「ひやん!」
「全の可愛い声…もっと聞かせろよ。」
まだ、ヒートになりきっていない俺の顔が一気に真っ赤になる。
それを一が見逃さず、耳に舌を入れながら囁いた。
「全、恥ずかしいのなんて分からなくなるくらいにたくさんエロいことしような…」
「やめっ!」
ぞくんと脳が震え、瞬間、腕で一の体を離そうと一の胸に手を当てた途端にズキンと痛みが走った。
「うくぅっ!!」
「バカだな…ほら、見せてみろよ。」
そう言って掴まれた手首の痛みに、涙目になって苦悶の表情を浮かべている俺を見て、一が手首にキスをした。
「痛いのも快楽に変えてやる…そろそろ匂いが強くなってきたけれど、気持ちの方はどうだ?」
一にそう聞かれ、自分でも身体中が沸騰するほどに熱く一の事しか考えられないのに、頭はどこか冷静でいつものヒートとは違う事が分かる。
「ひちが大事って思うけれど、ひつものとはひがう。」
そうかと一が俺の状況を見て、おもむろに口の枷を外した。
「え?」
驚きの声をあげる俺に微笑んだ一が指で俺の唇をなぞる。
「ヒートの時は俺のことだけ愛してるんだろう?だったらこれはいらない物だ。それにこれから身重のお前にもっと息が苦しくさせることするからな。3人分の息を吸うだけでも大変なのに、こんなの付けていたら辛すぎるだろう?だから…外そう、今だけ。」
そう言って枷をベッド脇に押しやり、それにしてもと言いながら少し考え込むと俺の手首をベッドに押し付けて唇に自分の唇を合わせた。
「こうやって、普通の時と同じような全だけど、ヒートだから俺だけを愛してる…か。面白いな。薬も量もいつものとは変えているみたいだし、それのせいだとは思うが…まぁ、冷静な全をヒートの時のように抱けるって言うのはそれはそれでいいけどな?」
そう問われても答えようもなく、熱くなっていく身体はそんな俺の心を無視して一の腰に体を擦り付けようとする。
「ふうん、そんなに俺のこれが欲しいのか?でも、まずは解さねぇと。」
そう言って舌で俺の顎を舐め、そのまま下におりて首を舐める。
「んっ!んんっ!」
我慢できない声がこぼれ、一がニヤッと笑う。
「いつもなら嫌だって突っぱねるけど、ヒート中だからか我慢するだけなんだな。その辛そうに我慢してる全の顔、むちゃくちゃクる。」
そう言って、一にうなじに歯を立てられ、それだけで俺は全身に電気が走ったように身体中をのけぞらせて腰を震わせた。
一がそれでも萎えずにいる俺の股間に手を伸ばし、濡れた先端を指で拭うと親指と中指をつけたり離したりして体液を俺の前で弄ぶ。
噛まれた痛みだけで果てた自分が恥ずかしくてやめろと横を向いた俺の背中に腕を回すと、精液の付いたままの指でぬちゅっと音を立てて俺の中に出たり入ったりを繰り返し、声を大きくしながら腰を揺らす俺を見つめつつ段々と指を増やしていく。
「なぁ、お前の体液をこの中に入れたら、子供ってできるのかな?今度沖に聞いてみるか…もし出来るなら…なぁ、作ってみないか?」
「俺だけの子?そんなのやだよ!大体、男がΩの場合はヒート時にのみαと子を作れるって言っていたじゃないか?!βやΩとでは子は出来ないんじゃないのか?」
ん?と、一瞬一が動きを止めて考え込み、そうだったなと言うと再び指を動かし出す。
「そう言えばそうだったような気がするな…それは後で沖に確認してみるとして、そろそろいいか?」
なんだかどうでもいいみたいな一の言葉にイラッとした俺がダメと答えると、当てようとした腰を止めてキョトンとした顔をした。
「ダメ?l」
「ダメ!まだ全然愛が感じられない!さっきから俺がヒートかとか、薬の話ばっかりで俺のことを全然見てくれていない。そんなんで一のことを受け入れるなんて嫌だ!どうせ、入れたらそればっかじゃん…俺はもっと一に…一に…」
そこまで言って冷静な自分が顔を出す。
一気に顔から足先まで真っ赤になっていくような感覚。俺の話を黙って聞いていた一の顔から消えないニヤニヤ笑い。その全てが恥ずかしくて俺は一の胸に顔を埋めた。
「全、俺にどうされたいのか教えて欲しいんだけど?なぁ?おーい!全、先を続けてくれよ。」
分かっているくせに!
そう言いたいけれど、言ったらまた意地悪をされそうで…俺はただただ口をつぐんでいた。
しかし、それを長く待ってくれるほど、一の気は長くはない。
すぐに一が俺を無理やり引き離してベッドに押し付けると、意地の悪い目で俺の顔を覗き込み、くわっと口を開ける。
「言わないと…そうだなこの突起を食いちぎろうか?」
そう言って舌で胸を舐めながら、乳首に歯を立てカリっと甘噛みする。
「いっ…あぁああああああっ!」
「ほら、言わねぇと、本当に噛みちぎっちまうぞ!いいのか?」
そう言ってさっきよりも少し強めに噛んだ。
「っつぅ!やぁあああああ!」
「やべっ!あまりにも可愛い乳首だったから、まじで噛みすぎちまったわ…ごめんな。」
ぺろっと舌で舐められるとピリッとした痛みを感じて、傷がついたことが分かる。
「痛い…一のバカァ。」
俺の目からあふれる涙を拭いながら、でもなと言葉を続ける。
「お前が俺の言うことを聞かないからこうなったんだろう?次は本当に噛みちぎるぞ!」
声の迫力にぶるっと震えた俺を抱きしめ、怖がらなくてもいいんだと甘く囁く。
「俺はお前が可愛くねだるその言葉を聞きたいだけなんだ。なぁ、分かるだろう?全、何て言おうとしたんだ?」
「…いがって…」
恐怖にカラカラになった喉がうまく声を出せず、一が大丈夫だよと頭を優しく撫でる。
「ほら、もう一回言ってみな?ん?」
「かわい…がって…って。」
「もう一回。」
一の声に迫力が加わる。
「かわいがって欲しい!…って言おうとした。」
恐怖に大きくなった俺の言葉を聞いて、一が満足そうに頷いた。
「そうか…全は俺にもっともっと可愛がって欲しかったのか…俺にもっと自分を見て欲しかったのか…あぁ!もう、我慢できねぇ!」
一の嬉しそうな顔が一気に雄のそれに変わるが、他のαに感じたような恐怖はなく、それどころか自分に向かってくる獣にされるこれからの事を思って、俺は期待に腰を震わせていた。
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