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第46話
「ひっ!ぁああっ!ひちぃいいいいいっ!やぁあああっ!あっ!くぅっ…ぁあっ!ひゃだぁあああっ!ひちぃ!ひゃすけてぇ!もう…これ…ぁああっ!」
どれくらいの間、こうやって一人で欲を放ち、熱を放っただろう?
ヒートはαの精子を入れることで緩和される…なのに一は部屋にも来ず、精子どころか手すら触れていない。
ヒートを継続させるためと沖が何度か点滴を替えに来ただけで、俺がどんなに呼んでも叫んでも一は一向に顔を見せもしなかった。
「もう…ひゃだぁ…もう、こんなのじゃ…感じたく…ぁあっ!また…またクるぅうううう!いっ…やぁあああああっ!」
腕を激しく動かし、ガチャガチャと付いている鎖を揺らして大きな音を鳴らす。
それが急に腕がブンと大きく動いて、危うく体にぶつかりそうになった。
「え?!取れた?あ…これで…これなら…」
拘束から外れた手をまじまじと見てから、はっと気が付いたようにもう片方の拘束されたままの手を見る。快楽に揺れる身体は、なかなか思い通りには動かないが、それでももう片方の腕の拘束を外してようやく両手が自由になる。
入っているモノを取り出すと、少し体の揺れも収まり、両足の拘束は手の時よりも楽に取り外せた。
最後に涎だらけの口の拘束を取り外し、ベッドから下りようとするが、ずっと拘束されていた身体は普通に歩くどころか立つのすらも困難で、腕につながる点滴台に必死にしがみつきながら、熱っぽいままの身体を引き摺るようにして扉に向かう。
一に会いたい、一に触って欲しい。一に抱いて欲しい。一の精子でこの熱を取って欲しい。
ずるずると一歩一歩、震える足で歩き続ける。ようやく辿り着いた扉のノブに手をかけて力を入れると、カチリと回って扉が静かに開いた。そっと顔を出して廊下を見るが、自分のいたあの家とは当たり前だが違い、どっちに行ったらいいのかすら分からない。
足を一歩踏み出して廊下に出ると、目の前には大きな窓が連なり、木が月夜の中、風に葉が揺れている。
「きれい…」
窓辺に寄り、まるで初めて見るような気持ちで木々の揺らぎをじっと見つめる。
「ここって…どこなんだろう?」
あの、思い出すのも嫌な日から、俺はベッドの上から動くこともなく、木板で塞がれた昼か夜かもわからない外を見ることも出来ない窓しかないあの部屋で過ごして来た。
後ろを振り向いて、今出てきた部屋を見つめる。その視線を左右に向けるが、両側ともすぐに曲がり角になっていて、先がどうなっているのかわからない。
「どうしよう…一…どこにいるんだろう…?」
まるで世界に一人で取り残された子供のように不安で堪らなくなる。
「…っけるな!」
そんな泣き出しそうになっていた俺の耳に一の声が聞こえた。
「一っ!」
カタカタと点滴台を滑らせ、声の聞こえた方に向かう。
何度も足がもつれ、転びそうになる身体を必死に動かして、一の元に向かう。
「やめろ!やめろって言ってるだろう!俺には全が…」
「…!」
「それは…でも、お前には…っめろ!」
「…めば…Ωに…私の…に、一様。」
一と沖の声が聞こえてきたが、なんだか聞いてはいけないような気がして、足が止まる。
「…ぁ!…ぁあ!」
「え?!一の…え?!」
聞いてはいけない!見てはいけない!ダメだ!近付いたら…近付いたら…
頭ではずっと警報音のように言葉が鳴り響く。
それでも、体はその言うことをきかず、足は声のする扉にどんどん向かって行く。
「やめぇっ!くぅあああああああっ!」
「これで…私の…です。一様、私のもの…くくく…ははは!」
沖の笑い声が響きわたる部屋の扉を、そっと開けるとそこには…
「一ぃっ!!」
裸でうなじに手を当てている一の指の隙間から赤い筋が流れるのが見え、沖が下半身を露出させた格好で、こちらに振り向いた。
「…全様…あぁ、拘束具が外れてしまわれたのですね…でももう、あなたに拘束具は必要ありません…ねぇ、おかしいと思いませんか?ヒートなのに私を怖がらない自分に…」
「あ…」
そう言われてまじまじと沖を見るが、それまで感じていた恐怖が全くない。
「何で?」
「何で…だと思いますか?」
近付いて来る沖。動かない一。
「来る…な…一…」
呼んでから、自分の気持ちが一から離れたところにあるのを感じて、後ずさる足が止まる。
「一…あれ?一…何で?あっ!」
名を呼び続けている間にいつの間にか目の前に沖がいて、腕を引っ張られて一の隣に放り投げられた。
「一…?」
「一様、愛しの全様がいらっしゃいましたよ…どうされたんですか?ほら、一様も同じだと全様に見せて差し上げましょうよ?」
沖の手が一のうなじを覆う手を無理やり引き離す。
そこに見えたのは、まだ血の流れている噛み跡。
「一…何それ?」
「っるな!見るなぁ!!」
一の叫びと沖の笑いの中、俺は訳も分からず、呆然と二人を見続けていた。
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