50 / 106
第50話
目を覚ます。いつもの昼か夜かも分からない部屋で、俺はたった一人で目を覚ます。
口も手も足も拘束され、動かせる首は治る間も無く付けられる傷で痛み、シーツに視線を落とすと、今日も血の跡。
あれから毎日毎日、沖は俺のもとに通って来る。自分のモノだと言う証を見て、俺を抱き、歯をうなじに立てて俺を果てさせると満足して一の元に戻っていく。それ以外は俺はあの家でもそうだったように、たった一人きりの部屋でする事もなく、時間が過ぎていくのをじっと耐え続けていた。
一との番が解消された事と、一が沖によってΩとなった事で、俺の心は何とか平常を保っていられるまでに回復していた。
今頃、一は沖の下で喘ぎ続けているんだろう。俺にしてきたように自分勝手に身勝手な愛を押し付けられ、Ωにされるなんて…俺よりも一は不幸になったんだ。
そうだ、一は俺よりも不幸なんだ。
その事実が俺を地獄の底から引っ張り上げてくれた。
人の不幸でしか幸福になれないなんて、自分でも嫌なやつだと思う。それでも、俺は一の不幸でしか自分の心を平常に保つ事ができない。一が俺よりも不幸であればあるほど、俺は心穏やかに過ごす事ができる。そうやって落ち着きを取り戻した俺は、ヒートを継続させなくてもよくなり、普通に日々を過ごす事ができるまでになっていた。
「なぁ、俺はまだこのままなのか?」
沖が口の拘束具を取り替えるために外したのを見計らい、我慢できずに尋ねてみた。
Ωは一人では生きられない。ましてや子を腹に二人も持ったΩなら尚更だ。今では俺にもそれ位のことは分かる。だからもう逃げないし、自分で自分の命を散らすほどの固い決意もない。
「もう、抵抗する気はないんだ…子供もちゃんと産む。だからもうこれを取って欲しいんだ…ダメか?」
尋ねる俺に、沖がそうですねぇと悩むような格好をしながら、俺の口にやはり拘束具をはめていく。
「あなたは私のモノだと認識できるので、これ、好きなんですよね。それと、あなたが感じながら懸命に身を捩るたびに鳴る鎖の音…あれも私の耳を楽しませてくれる…そう言うことで、あなたには一生このままでいてもらおうと思っています。」
「ひっしょう?」
一は子供が産まれるまでと約束した。一生なんて話は聞いていない。
「そんなの…」
あまりの衝撃に言葉が続かない。
「私はね、全様。相当に独占欲が強く、そして支配欲はもっと強いのです。だから、あなたのこの姿は私の独占欲を安心させ、支配欲を満足させる。」
「子供は…?」
そうですねと俺の体の上を指で滑らせながら話す。
「そうですね、お産まれになったら私がきちんと乳母を見つけてきますよ。ですから、あなたは産めばいいのです。さて、今日も私の噛み跡はきちんと付いていますか?」
楽しそうに首にある傷跡を見ると満足そうに微笑み、舌で舐める。
「あっ!ぁああっ!」
分かっていても身体がゾクゾクと震え、我慢できない声が口から漏れ出る。
ヒートではないのに、沖と番になってからは何故か一の時とは違って、触れられると全身が震え、どうにもならない快楽に身も心も落ちていく。そうしてうなじを噛まれることで昂りを一気に解放し、今まで感じたことのないほどの絶頂の中で眠りにつく。
そしてまた目を覚まし、同じ一日が始まる…
ともだちにシェアしよう!