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第57話

「全様!全様!」 床に膝をつきベッドに上半身を預けたままで寝ていた俺は、こんと足を蹴られて眠りから覚めた。 「沖…?」 開いている扉の向こうに陽の光が見えて、夜しか来ない沖にしては珍しいなと思いつつも、沖が来てくれたことが嬉しくて手を伸ばした。 しかしその手は振り払われ、沖は冷たい声で俺に言った。 「全様、少々実験にお付き合い下さい。」 「実験?」 パチンと沖が指を鳴らすと、廊下からカチャカチャとワゴンを押してあの覆面の男達が入って来た。 「え?沖…俺を売る…のか?」 青ざめた俺を見てあぁと天井を見上げた沖が、首を振った。 「違いますよ…まぁ、私の子を産まない出来損ないのΩではあっても、あなたはこの家の主人ですからね…それにあなたがいることで一様は嫌なお仕事にも励んいでらっしゃる…ですから、そんな一様に私からのご褒美を差し上げようかなと思いまして。」 「ご褒美?」 面白そうに俺の顔を覗き込むと、かちゃんと首に鎖に繋がれた拘束具がはめられた。それが四肢の拘束具と繋がっている。それを全て取り付けると沖が嫌そうな顔をして、俺に刺さったままの張り型を汚いものを触るかのようにつまんで一気に引き抜いた。 「っああああああ!」 「はしたない声を出すのはおやめなさい…さて、行きましょうか?」 カラカラと車椅子がベッドのそばに横付けされて、覆面の男に抱き上げられた俺がその上に座らせられる。 沖の合図で車椅子が押されて部屋から外に出た。 二人を探す時に一度だけ家の中を歩き回ったが、探すことに必死であまりよくは見ていなかった。こうしてゆっくりと見ていると、なかなかに広く威厳のある家だと、置いてある調度品などからわかる。 するとキョロキョロと見回している俺の頭を沖の手が掴んで前を向かせた。 「全様、子供じゃないんですから…」 そう言って叱られた俺はしゅんと俯くふりをして、沖にバレないように目だけを上げてキョロキョロと周囲を見ていた。 「着きましたよ。」 突然に止まった扉の前。前回、探していた時に開けた扉とは違い、大きく重厚な扉で中からの音は一切聞こえてこない。 「ここは?」 尋ねる俺に広間ですよと沖が答え、覆面の男が扉を開けた。 中は目も眩むほどの明るさで、俺は腕を目の前に掲げながら目を瞑った。おおーーー!と唸るような低い声が聞こえ、俺は薄く瞼を開けるとまだ痛む目を腕で覆いながら部屋を見渡した。 そこには大きな舞台と数個の丸テーブル。その周りに数脚ずつの椅子があり、目に独特の仮面をつけた男性とわかる人々がこちらを一斉に振り向き声を出し、手を叩いて笑い合っていた。 「何、これ?」 尋常ではない空気に腰が上がる。しかしそれを後ろから覆面の男に肩を掴まれて座らせられると、カラカラと車椅子が舞台に向かって動き出した。 人々のジロジロと舐めるように見る視線に初めて自分が部屋にいる時と同じ裸のままでいることに気が付き、一気に身体中が真っ赤になっていく。 「沖、俺…恥ずかしいよ。なぁ、何かかけるものくれよ。」 「全様、すぐにいらなくなるものなどかけたって仕方がないでしょ?」 沖がおかしそうに笑いながら言う。俺はそれを聞いて、まさかという思いに赤かった顔が青くなり、車椅子の上でガタガタと体を揺らして、この場から逃げようとした。 「抱き上げて舞台に上げろ!」 沖の言葉に車椅子を押していた男が俺を抱え上げて、ばたつく俺を舞台にあげると、そこに置いてあるベッドに鎖を繋いで固定した。 それでも逃げようとジャラジャラと音をさせてばたつく俺の耳に懐かしい声が聞こえた。 「全っ!」 声のする方に向くと一がこちらも首輪をつけられ、そこについている鎖を沖が持ち俺の側に連れて来た。 「沖、どういうことだ!?こういうことは俺だけがするって言ったはずだろ!金が足りないならもっと客を取るから…全を部屋に戻してくれ…頼む…いや、お願いします。沖…お願いします。」 沖に頭を下げて願う一に、俺の目からは無意識に涙が溢れていた。 「一、やめろよ!そんな…そんな事するなよ!」 「全、お前は黙ってろ!俺はお前を守るって決めたんだ。そのためなら今ここで何をされても俺は構わない…ただ、全は部屋に返してくれ。」 沖に懸命に頼み込む一に沖は冷たく言い放った。 「全様がいないと話にならないんですよ。これは…彼の方のご要望です。その代わり、あなたを番にすることは諦めるとそう言う約束なんです。こちらもあなたを連れて行かれては困りますからね。その代わり、あなた方には手を出しません…一様、むしろこれはあなたへのご褒美みたいなものなんですよ?」 「なっ?!ここにいるのか?いるなら、俺が頼む、俺が頼んでこんな馬鹿げた事、あいつに頼んでやめさせる…番にはなれないけれど、俺を殺す以外なら何をしてもいいって…頼むから、あいつのところに連れて行ってくれ!」 一が客達を見回して、後ろの方で優雅にワイングラスを手に持った男に目を止めた。 「お願いだ!聞こえていただろう?俺には何をしてもいいから…だから、全を部屋に戻させてくれよ!全を巻き込まないでくれよ!頼む…頼みます…」 一が舞台から降りて行きそうになるのを、沖の手が鎖を引き寄せて止める。 一をじっと見ながら笑みを浮かべていたその男はスッと立ち上がるとグラスを高々と掲げ沖にやれと言うようにグラスをそのまま床に落とした。 パリン その音が合図のように沖は一の鎖を解いた。 「もし一様がこの舞台から逃げるようなことをすれば…全様はあの出禁となった方の元に連れて行かれます…お分かりですよね?あなたが危うく命を落としそうになった彼の方の元に全様が行かれるんです。」 走って舞台から降りようとした一の足が無理やり止まる。 「何を…すれば…いいんだ?」 苦しそうに絞り出す声で尋ねる一に、沖は平然と言ってのけた。 「皆様の前でセックスをして下さい。全様はヒートの真っ最中。αからΩとなった一様でも番のいるΩは怖がるのか?子供はできるのか?私の好奇心としての実験。そしてこの場におられる方々は、双子のあなた達の背徳的に愛し合う姿を見たいという欲求。そして彼の方はあなたをいまだに繋ぎ止めている全様と、あなたがどのように愛し合うのか…むしろ本当に愛せるのか…兄弟として育ってきたあなた方の愛し合っているところを見れば、番にするのは諦めるとおっしゃっているんです。」 「だからって…こんな所で…」 一が唇を噛むが、視線は俺の身体を見つめてごくりと喉を鳴らした。 「できないなら、あなたは彼の方の番になり、全様は…」 「分かった!でも、いいんだな?俺、本気であいつを抱くぞ…いいんだな?」 「よろしいですよ…そうでなければ見せ物として全く面白くありませんからね。それに、そういう嫉妬を掻き立てられるようなものを見れば私も…」 「え?」 「いいえ、なんでもありません…さぁ、私は舞台から降りますので、あとはお二人の気のすむまでどうぞ…」 「他の奴らもここには上がってこないんだよな?」 舞台から降りて行く沖の背中に一が問いかけると、はいと沖が頷いた。 「もし、約束に反した行いをすれば、その方は今後一切この店には入れません…ですから大丈夫ですよ。一様が満足するまで全様を抱いて下さい…私が嫉妬するくらいに…期待していますよ…」 そう言って高笑いしながら沖は部屋の後ろのテーブルまで行って席に着くと、彼の方と呼ばれている男と共に談笑し始めた。

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