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第58話

ギシっと沈み込むベッド。 足元からゆっくりと一が俺の体を跨いでくる。 「やだ…俺の番は沖だ!俺は沖に愛されたいんだ!やだ!沖、助けて!!」 一が寂しそうに微笑んで俺をぎゅっと抱きしめた。 「分かってる…分かってるよ…でも、俺を見てくれ。なぁ、俺が怖いか?」 「やだ…いやだよぅ…俺…俺…」 「あぁ、そうだな。お前が愛しているのは…沖、だもんな…。ごめん、俺のせいでこんなことに付き合わせちまって…守るって言ったのに、全然守れていないな、俺。」 皆の目から遮るように俺の横に寝転がって俺に謝る一にほんの少しだけ心が揺れた。 「怖くは…ない…沢の時とかみたいな恐怖はない…」 「そっか…やっぱり俺、Ωなんだな。お前を妊娠させられないから、お前は俺を脅威と感じない…か。なぁ、謝りついでにこれからすることも謝っておくな…お前をいっぱい抱くよ、俺。俺があいつの番になったらお前の事、本当に守れなくなるから。あいつが納得するまでお前を愛すよ…ごめんな。」 「沖がいる!沖が俺を守ってくれる!」 駄々をこねて一に食ってかかる俺に一がそうじゃないと大声を出した。 「あいつはお前を…俺の命を奪おうとした奴に売ろうとしているんだ。俺は沖に騙されたんだ…あいつは始めから俺を愛してなんかいなかった。αをΩにできるか実験したかっただけなんだ…その結果が出れば、俺はあいつにとって好奇心の薄れた人形。だが、その希少性に沖は目をつけた。俺が普通に働くよりも簡単に大金が手に入る方法だ。俺は無理矢理ヒートにさせられ、恐怖の中でα達の相手をして来た。沖は俺との番を何故か解消してくれないから、俺もお前と同じように他のαに恐怖を感じるんだ…妊娠なんかしないのにな。」 自嘲気味に笑った一が痛々しくて、あの恐怖を知っている側の仲間として、俺は一をじっと見つめていた。 「初めて取らされた客が、出禁になったそいつだったんだ。俺はそいつから暴力と言ったほうがいい抱かれ方をされて、何本もの骨を折られ、内臓も損傷を受けた。愛なんてどこにもない、力でねじ伏せるセックスをされて、俺は助けられた時には瀕死の重体だった。それでも沖は許してはくれなかった。体が落ち着くと、毎日何人もの客を取らされた。その中にさっきの男がいた。あいつは俺の何が気に入ったんだか沖に俺を番にしたいと言ったらしいが、俺がいなければこの家の表向きの主人はいなくなり、こういう家が受けている特別な扱いもなくなる。だから沖は俺を手放さない…いや、手放せないんだ。」 そう言って、沖とその隣に座る男を睨んだ。 「でも俺も、この状況を喜んでいる…ごめんな…お前がいやだっていうのは分かっているんだ。でも、お前をあいつのところに行かせるわけにはいかない。これがお前を守る事になるんだ…だから、俺にお前を愛させて欲しい。俺はお前を愛したいんだ…」 一には他のαのような恐怖は感じない。 ならば… そう言ってヒートの熱が俺の背中を押す。 でも、相手は一だ。 俺は一を許さないと決めたんだ。 でも…もしも俺がここで抱かれなかったら、俺は一が言った怖い奴の所に沖と離れて行かなければならなくなる。 それは嫌だ! 「分かったけど、お前を許したわけじゃないんだからな!沖と離れるのが嫌だから…」 横を向いた俺の首に一の唇が当たる。 「あぁ、分かってる…愛してるよ、全。」 「俺の匂い嗅げていないのに、一は俺を抱けるのか?愛してるってなんで言えるんだ?」 俺の質問に首を舐めていた一がフッと笑い出した。 「お前の匂いなんか関係ねぇよ…俺はお前をαだと思っていた時からずっとお前を愛していたんだ。抱きたかったんだ。匂いで番にしたわけじゃねぇんだよ。」 一の言葉に心臓がドキドキと高鳴り、身体中が熱くなっていくがそれは、ヒートで感じる欲情の熱さではなく、幸福を感じて暖かくなっていくそれだった。

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