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第60話
部屋に入った沖は俺をベッドに放り投げると扉を荒々しく閉め、まるで破り捨てるかのように服を床に脱ぎ捨ててベッドに大股で近付いて来た。
「沖…ごめん…沖…怖いよ、俺…許してよ…沖…」
「許されると思っているのですか?私という番がありながら一様に子をねだり、うなじまで噛んで欲しいとねだったのですよ、あなたは。」
沖が首の鎖を腕に付け替えてベッドに取り付けていく。ピンと伸びた腕に余裕はない。
足は曲がる程度の余裕はあるが、体が引っ張られるような痛みに顔が歪む。
「あぁ、痛みますか?でも申し訳ありませんが、私にはあなたを気遣う余裕がないのですよ。今すぐにあなたを私の体液まみれにして、あの一様の上書きをしなければいけませんので…あぁっと、大事な事を忘れていました。」
今にも飛びかかって来そうな勢いだった沖が、まるで急ブレーキでもかかったかのように静かな声で俺に尋ねて来た。
「私はね、全様。彼の方が望まれたので先程の場を準備はしましたが、あの場でも言ったように私の好奇心のためでもあったのですよ。なので、忘れてしまわれないうちにお聞きします。」
先程までの獣のような目から、科学者の目に変わり、俺を性的対象者ではなく実験動物のように見つめる。
「一様に対して恐怖は如何だったのですか?」
「…他のαみたいな怖さは…なかった。」
「そうでしょうね…あれほど気持ちよさそうに声を上げていましたし…恐怖はなかった…では、これが1番大事なのですがね…」
そう言って沖は俺の腹に手を置いた。
「私の元に来られたαからΩと変わられた方達の精液を採取して、Ωを受精させてみたのですがね、ことごとく失敗しまして…ただ、αの精液と成分に変化はないので、理論上はΩを妊娠させる事ができるはずなんですよ…しかし成功例はない。あと、考えられるのはヒート時の中、子作りを直接した場合…ですが、番のおられる方達にその事を頼んでも断られるだけで…なのであなたと一様ならと思ってこの話に乗っかったのです。」
「…。」
黙って聞いている俺を見る沖の目がぎらりと光った。
「できましたか?」
敵意などではない。静かな声に含まれる殺意。
「…。」
俺はただ黙って首を横に振った。
それを見た沖が腹に置いた手を動かして撫で始めた。
「嘘…はいけませんよ?」
ぞくっと背筋を氷が這ったように感じて身震いする。
「まぁ、すぐにわかる事ですが…」
そう言って沖はそばに置いてあった小さな容器を手にして、蓋を開けた。
「全様、口を開けてくださいますか?」
「これ、何?」
俺の問いに沖は何だと思いますか?とふざけたように答えると、俺の耳元に口を近づけて囁いた。
「Ωの妊娠がすぐに分かる検査キットです。」
「え?!俺、妊娠していない!子供の泣き声なんかも聞こえなかった!だから、検査なんかしなくていいから!なぁ、沖!」
必死に沖に言い続ける俺に沖は、だったらしても構わないですよね?と言うと、俺の嫌がる口に指をかけて無理矢理こじ開け、そのまま指を口の中に押し込むと、俺の口の中をなぶり始めた。
動かされる指がまるで舌のように俺の口の中を縦横無尽に動き回り、俺の舌とよだれを絡ませてくちゅくちゅと音を立たせる。
「んっ!やぁあああ…んんっ!」
甘い声と共によだれまみれの指を口の中から出すとその蓋を開けたケースの中の紙に俺のよだれをなすりつけた。
「赤くなれば陽性…すなわち妊娠していると言うことです。そして、あなたが私に嘘をついたのか、それももう少しでわかるというわけです。」
俺の目の前で揺らされるケース。それは俺の願いとは裏腹に赤い色に変化していった。
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