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第62話

沖が高笑いを上げながら、俺の身体を貪ろうとしたその時、扉をノックする音がけたたましく部屋に鳴り響いた。 「何だ?」 イライラした声で、俺の上で大声を上げる沖に扉の外から思いもかけない報告がされた。 「一様の心臓が動いていないと…その、彼の方がご自分の知り合いのところに連れて行くと仰られて…一様を屋敷外に連れて行こうとされていまして…それで、どうしたらよろしいかと…」 「何ですって?!」 沖が俺の上からどいてベッドを降りると、側にあった服を素肌にひっかけて大股で扉に向かった。 開いた扉と沖の体の隙間から廊下にいる覆面の男が見えた。沖がどういう事だと食ってかかる声が聞こえ、再度同じ事を沖に報告している恐怖にひきつった声が聞こえてくる。 一の心臓が止まってる?! 聞こえてくる言葉を繰り返す。 一が死んだ…いや、そんなわけない! じっと自分の内側に目を向けるも、一の存在は俺の中から消えてはいない。 まだ、生きている。一はまだ生きている。 恐怖に震えそうな身体を懸命に落ち着かせ、大丈夫だ…大丈夫だと自分自身に言い聞かせるように心の中で呟く。 「卿には私がすぐに行くので待ってもらうように伝えろ。一様を私が直に診て、それから卿と話をする。」 バタンと扉が閉まり、廊下を走る足音が遠ざかって行った。その場で何かを考え込むようにじっと止まっている沖に我慢できずに声をかけた。 「沖!一は大丈夫なのか?!」 そんな俺の言葉を無視して歩きながら床に落ちている服を拾い上げて埃を落としつつ身支度を整えていく。 「沖!!」 「知りませんよ!これから診て…それから色々と考えます…あなたはここでお待ちになっていて下さい…あぁ、こんな時でもΩの身体というのは本当に…」 沖の目が俺の萎えないままの下半身を見て蔑むように言った。 「だって…ヒートなんだ…これでも我慢して…うぁああああっ!」 沖にいきなりぎゅっと握られて腰が浮いて声が出る。 「汚らわしい…こんな時でもご自分の欲に抗えないとは…本当にΩとは…さっさと抑制剤を打たせに来させますので、静かにしていて下さい。」 手についた俺の体液をシーツでゴシゴシと拭き取ると、蔑む目で俺を見る。しかしその視線に再び俺の下半身がクンと反応してしまう。 「あっ…ごめん…なさい…」 消えいるような俺の謝罪を鼻で笑って、沖が部屋から出ていった。 「…一…一が死ぬ…嬉しい?悲しい?俺は一体どっちなんだろう…俺は一にどうなって欲しいんだろう?」 今も身体の内に存在している一。同じ遺伝子ではない俺達でも、なぜか感じる一の存在… 運命 一の声が聞こえた気がした。 運命の双子か… ならば俺を置いて勝手にどこかへ行くな!俺を守ると言った約束を守れ! 「ばかやろう…死んだらもう抱かせてやらねぇんだからな…一…死ぬな…死ぬなよ、一…」 そっと開いた扉の隙間。じっと聞き耳を立てている男の影に気付かずに、俺は静かに涙を流していた。

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