あの日から俺は一の部屋にずっとこもり、自分の心と向き合った。 目を瞑ったままで動かない一をじっと見つめているだけの日々。 それは今までで一番家族として、双子として一に向き合っている時間だったかもしれない。 「全…様。少しはお休みに…」 沢の掠れ声にも大分慣れ、元の声がどんなだったかも忘れそうになっていた頃、俺の体に異変が起きた。 「あっ！やぁっ！やだ…今は…一ぃ…」 身体が熱く我慢できない欲望。沢にも一以外の誰にもこの身体に触れさせないと約束したとは言え、目の前にいる一にヒートの熱を冷ましてもらうこともできず、かと言ってこんな場所で自分を慰めるわけにもいかず、苦しさに床に横たわって自分自身を抱きしめ、その熱を床の冷たさでなんとかやり過ごそうとした。 しかし、熱は段々とその熱さを増していき、俺はついに我慢できずにベッドに寝ている一に跨ろうとした時、その顔に恐怖を感じて青ざめ、俺はベッドから離れて壁にもたれかかりぶるぶると震えていた。 「怖い…怖い…何で？沖ぃ！助けてよ、沖ぃーーーー！」 俺の悲鳴に驚いたのか、沢が部屋に駆け込んで来た。 「全！…様！どうしたんで…ヒート、ですね？」 沢の顔を見た途端に体の震えが治まり、その体に抱きつこうとした腕をぐっと我慢して、近付く沢を来るなと手で制した。 「全…様？」 「俺、約束したんだ…もう、一が目を覚ますまで、誰にも触れさせないって…だから…」 沢が俺の話を聞いて分かったと頷き、薬を持ってくると部屋を出て行った。 先ほどよりは落ち着いた身体をソファに横たわらせ、俺はじっと自分の体を抱きしめていた。 バタンと扉の閉まる音がして、そちらを向くと沢が近付いてくるのが見えた。 「全…様…お薬です。」 そう言って渡された薬が震える手からこぼれ落ちたが、床に落ちる寸前、沢がそれを受け取り、ソファに座って俺の頭を膝に乗せると、口の中に薬を放り込んだ。グラスが口元に近付くも、それはカチカチと歯が当たって音を出すだけ。震える俺の口ではうまく水を飲めず、沢が自分の口に水を含み俺の口に流し込んだ。 「…め…だめぇ…約束が…んくぅ…」 「薬を飲むだけです…」 沢の言葉に頷き、口を開いて流し込まれてきた水でごくんと薬を飲み込むと、身体がまるで鉛のように重くなっていき、瞼一つ開けることもできない。そのうち意識も混濁していき、俺はずるずると闇底に引っ張り込まれて行った。 現実と夢の狭間を行ったり来たりしているような不思議な感覚が恐ろしくて、無意識に手を伸ばしてうわごとのように呟いた。 「…たすけ…て…」 伸ばした手をぎゅっと掴まれ、聞こえてきたのはずっと待ち望んでいた声。 大丈夫 全は俺が守るから 大丈夫 俺を見下ろしていた顔が沢から一になり、合わさる唇。 「だめぇ…約束が…」 「それは俺が起きるまで他の奴には触らせないって事だろ？今、お前に触れているのは誰だ？」 「一…！一ぃ！」 目を瞑っていてもわかる一の匂い、一の声… 絡まる舌を逃さぬように一の頭をぎゅっと抱き寄せる。 「全、俺を愛しているか？」 尋ねられた質問に声が詰まる。 「こんな風に俺の腕の中でよがっていても、お前はまだ…」 「ごめん…だって分からないんだ…俺の心は一を家族として愛している。でも、それは恋愛の愛なのかと問われると…やっぱりお前にされた事が…ぁあああっ！」 カリッと乳首を噛まれて背中が仰反る。我慢できずに声がこぼれた。 「やぁ！い…じわる…やぁあああっ！」 「俺にされてこんなにしてるくせに、お前はまだ…まぁ、いいさ。今日は家族愛ってことにしておいてやるよ。ほら、シて欲しいんだろ？」 こくこくと頷く俺に、見えなくても一が意地悪そうに微笑んでいるのが分かる。 「ヒートの時の素直な全…やっぱり可愛いな…」 一の舌が俺の身体を愛しそうに優しくなぞり、ぴちゃぴちゃと音を立てて筋をつけていく。 「んっ…はぁ…ぁっ！んんっ…ぁ…あああっ！」 腰を揺らして一に擦り付けようとする俺の中に一の指がぬぷっと入り、温かい液体が俺にかかっていく。 「指だけでイったのか？」 驚く一の声に横を向くとその耳に一が囁いた。 「もう、終わりでいいのか？」 「意地悪！…言わない…でぇ！もっと…もっと奥ぅ！もっといっぱい…ちょうだい！」 一がくくっと笑って指を増やし、奥を抉りながら、気持ちいいところを擦られて、俺は腰を上げて一にねだった。 「欲しい！一の…一をちょうだい！俺の中を一のでいっぱいにしてぇ！」 分かったよ 一が囁いた途端に体内を貫く快感に身体中がビクビクと痙攣を起こし、またも熱が放たれた。 しかし、一はそのまま腰を動かして俺の昂りをどこまでも高め、俺はもう訳も分からずに一にしがみついて声を上げ続けた。 「もっと！もっとぉ！一のでもっと奥ぅ！！」 しかし、ドクンと心臓が震え、俺の理性が動きを止めさせた。 「どうした？」 一も動きを止めて俺の頭を撫でると、額に唇の感触。 「まだ…誰にも言って…ないんだけど…」 「どうした？」 俺の言葉に一の心配そうな声が答える。顔が見えなくても見つめる瞳に優しさと暖かさを感じた。 「俺…沢との…子が…」 「いるのか？！」 頷く俺。しかし、一の体が震えているのを感じて、怒っているのではと心配になり、なんとか目を開けようと試みた。 「何をやっている？」 「一が怒っているんじゃないかと心配になって…だから…」 「全、これは夢の出来事。だから、その目を開けば夢から覚めちまうぞ？それと、俺は怒っていないから心配するな…」 「やだ！こんな状態で覚めたら俺…」 俺の言葉に一がハハッと笑い、分かってるよと言うなり、止まっていた腰を動かし出した。 「全、ここで我慢しろよ…俺も今日はこれ以上奥を突くの我慢するから…お前の子供が産まれてくるの、楽しみにしてる…愛してる…愛してるよ、全！」 「はぁああああっ！一ぃ…我慢するから…だからいっぱい…いっぱい俺を気持ち…よく…してぇええええっ！」 あぁ、と言って全は約束通り、俺がその意識を完全にこの世界から切り離すまで俺を愛し続けた。そして次に目が覚めた俺は、それが夢だったんだとベッドの上で眠ったままの一を見て、涙を流した。