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第70話

はぁ あの夢で一と愛し合ってからずっと、俺は一をじっと見続け、一の言っていたことを考えていた。 家族愛…か。 分かっている。 家族愛なんか俺たちにはないってこと。 愛…して… ダメだ! それを受け入れたら俺は…こんな状態の一を受け入れて…それでもしも一がこの世界からいなくなったら… 俺も… 「全…様。」 はっと後ろを振り向くと、心配そうな沢の顔。 「あ、何?」 目の縁でこぼれずにいた涙を、それと分からぬように拭うと、沢からどうぞとテーブルに置かれた食事を示された。 「ごめん…今は食べたく…」 「ダメだ!」 「沢?」 沢には似つかわしくない強い物言いに驚いて見つめる俺に、はっと気がついたように沢が頭を下げた。 「すみません…でも、食べないと…」 沢の視線の先にある俺の腹。 「あ、うん…じゃあ、少しだけ…」 沢に手伝ってもらいながら、ソファに座って食器を手に取る。しかし、その手は止まったまま。 「なぁ、沢?」 「何ですか?」 「俺さ、ずっと一人で食事してるだろ?多分、それも食べる気がしない原因の一つだと思うんだ。」 俺の話に沢がそれで?と言う顔をする。 「もう!だからさ、沢がここで一緒に食べてよ!」 「いけません!」 「何で?今は一は寝ていて、沢の主人はこの家では俺だろ?」 「だからこそです…使用人と食事なんて…」 「何でだよ?俺とお前はずっと一緒にお茶をしてきたじゃないか?あれができるのに食事はできないっておかしいだろう?」 沢の目が俺の話に狼狽しているのを見過ごさなかった俺は、畳み掛けるように沢に詰め寄った。 「なぁ、あのティータイム…楽しかったな…沢と飲んだお茶、沢と食べた菓子。今でも覚えてる…楽しくて、美味しくて…だからさ、沢と食べられたら食事も美味しくなると思うんだ。それに俺にはもう一緒に食べてくれる人は、沢しかいないんだからさ…頼むよ。」 「…私が食べれば一緒に食べていただけるんですね?」 うんと頷く俺に沢がため息をついて頷いた。 「分かりました…約束、守って下さいね。」 「ありがとう、沢!」 久しぶりに楽しい気持ちが俺を満たし、いつの間にか皿の上は空になっていた。

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