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第82話

「何事だ?」 廊下に出て声を上げると沢が駆け寄り、俺を守るように前に立った。 「すみません…警察の方が…その…一様に会わせろと…」 「部屋まで聞こえてきた…一に会いたいそうですね?」 沢の肩に手をかけて後ろに追いやると、ガサツそうな男と対峙した。 「あんたは?」 「お…私は一の双子の兄弟の全です。」 「あぁ、それは失礼しました。俺は…」 名前を言おうとする男に向かって手を広げて制する。 「あなたが警察の方だと言うことだけで十分です。私にはそれ以上の情報は無用。」 「は?!」 俺の物言いにカチンときたようだったが、俺も突然の来訪に多少は苛立っていたので、それには気付かない振りをして、部屋の扉を開けた。 「入るのはあなただけにして下さい。法を破り、過ちを犯した人間でも、その最期の静けさは守られるべきだ。そうでしょ?」 俺の言葉で全てを悟った男は、部下にここで待ってろと指示すると、扉を開けたままで立っている俺に一礼して部屋に足を踏み入れた。 その後ろから俺が入り、沢が続いて部屋に入り扉を閉める。 外の喧騒とは別世界のような静かな部屋の中で、男はベッドから少し離れた所から横たわっている男をじっと見ていた。 俺はゆっくりとベッド側の椅子に座る。 「双子だそうですが似ていないんですね?この方が本当に一さんなのですか?」 男に問われ、あぁと頷いた。 そっと後ろを見ると、沢の額に汗が浮かんでいる。 「私達は二卵性なんだ…だから似てはいない。だが、私の双子の兄弟の一に間違いはない。」 「それで、いつ?」 「多分だが、明け方だと思う。私は昨夜、ここで一緒に寝ていたのだが、気がついた時にはもう…。」 「それでこちらの方は?」 「沢だ。前の家からずっと私達の身の回りの世話をしてもらっている。」 一瞬、沢の眉が上がったが、すぐに冷静に男に対応する。 「ずっとお二人のお世話をさせていただいております。」 「沢さんって、あなたも確かこの一さんに殺されかけたんじゃ?!」 男が沢に近付き、ですよね?と下から顔を覗き込む。 「それでも沢は私からは離れません。私達はそう言う関係なんです。」 俺の含んだ言い方にほう?と下衆な笑みを浮かべて俺を見る。 「ところで、なぜ今頃になって父の…で合っていますよね?」 俺の問いに男が頷く。 「えぇ、あなた方の父親と言うか、ご家族への放火殺人の捜査です。」 沢に促されて、ソファに向かう。 「あなたもどうぞ。」 座ってから男にソファを差し示すと、どうもと言いながらどかっと座った。 「あなたの家で行われていた事の捜査の途中でチクりがあったんですよ…沖から。」 「え?!」 「沖はあなた方が留守にしているあの家で、上流階級の方々を対象に売春をしていると言う噂があり、その捜査中に沖が交換条件と言いますか、自分の主人を売ったということです。」 「それで沖は?」 俺の問いに男はむすっとした表情になると、呟くように答えた。 「いらん横槍入れやがって…」 「え?!」 「何でもないです…まぁ、上からの圧力ってヤツでね…えぇ。無罪放免ですよ。ただし、きつーく言い聞かせましたし、αってやつは打たれ弱いんで…おっと、これは口が滑りました。」 「いいえ、私はαではないので…」 「あ…あぁ、それはどうも…」 話の途切れた部屋にノックが響き、沢が扉を開けに向かった。 「おいおい、私に内緒でこんな捜査をしているとは…これは帰ったらお仕置きだな。」 「卿?!」 騒々しい声と共に入ってきた卿に驚きの声をあげた俺に対し、男はチッと舌打ちをすると席を立とうとしたが、卿の手が男の肩にかかり、そのままソファに座るよう促されて再び腰を下ろした。その横に卿も腰掛けると、沢が紅茶の乗ったワゴンを押してテーブルに近付き、カチャカチャと支度をして置いていく。 それをありがとうと一口啜った卿が、男の太ももに手を置き、さすりながら話し始めた。 「この捜査はもうしても無駄だと、昨夜言い聞かせたはずだったんだが。起きてみたらお前がベッドから消えていたので、まさかと思って来てみれば…全く君は本当に私の言うことを聞かないね…困った番だ。」 「え?!こちらの方が卿の?」 男が太腿に乗っている卿の手を振り払い、横を向いて怒ったように言う。 「言うなよっ!大体、番だからってなんでもαのお前の言うことを聞かなきゃいけないなんて法はねぇだろ!?俺は俺のやりたいようにやる!」 男の言葉に目を見開いた。 Ωでも自分の人生をこの男は生きている… 俺は、俺には出来なかったことだ。 そっと沢を見ると、向こうも俺をなんとも言えない顔で見つめていた。 「ふふふ…その強がりがどこまで持つのか楽しみだな。このまま帰宅するから、外の車で待っていなさい。これは番としてではない…お前の上司としての命令だ…いいな?」 ふんっと鼻を鳴らして立とうとする男に卿が手をかけてそのうなじに歯を立てた。 「くぁっ!!」 「分かっているな?行け!」 「…あぁ。」 男は少しふらついたが俺達を見ずに頭を下げると、壁に手をつき体を支えながら部屋から出て行った。

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