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第87話

「それでは…はい…失礼致します…」 とろとろと浅い眠りを漂っていた俺の耳に、何人もの靴音が廊下を忙しなく通り過ぎていくのが聞こえた。 「卿には私からも後程、お礼致しますが、よろしくお伝え下さい。みなさんも本当にありがとうございました。」 ん?! 何をやっているんだ? 完全に覚醒した頭が、聞こえてくる話から推理するなんて大袈裟なことをするまでもなく、一が卿の貸してくれた使用人達を返すんだと分かった。 「それでは、お気を付けて。」 窓の外から聞こえてくる数人の声が、バタンバタンと扉、車の扉だろうか、そんな音がしたと同時に聞こえなくなり静かになったと思ったら、そのすぐ後にエンジン音が鳴り響き、それもすぐに去って行った。シンと静まり返った部屋にギーっと扉が開く音がいつもより大きく聞こえた。 「あぁ、起きられましたか?」 「い…沢!この家の主人は俺のはずだろう?何で勝手な事をした?」 張り上げる声とは裏腹に、近付いて来る一に身震いが止まらない。誰もいない家。止める者のいない家で一と二人きり。頭が危険だと信号を鳴らす。 そんな俺を見つめながらギシっとベッドに手をついて跨ると、手に持った鎖を舌でツーっと舐めた。 「全様。私はこれからすこぉし出かけてくる用事があります。その間、あなたをどうしようか考えたんですけどね?私は医者ではありませんのでヒート誘発剤を打てませんし、それで放っておかれるのはお可哀想ですし…ねぇ?」 バカ丁寧な敬語が、これからされることの酷さを反映しているようで俺は話を聞く前から、一の下でその身を捩り、謝罪を繰り返していた。 「やめて…っめんなさい…ごめん…なさい…やめ…て…」 青ざめた顔に優しく触れる一の手。それにもビクッと反応して涙が頬を伝う。 「あー、これは私も傷ついてしまいますよ?まだ何もしていない内から、このように怖がられては…仕方ありませんね…」 顎を力を入れて握られ、歪む顔を横に向けると、俺の頬から耳にかけて舌でツーっとなぞり、耳の奥に舌を入れる。 「くぅんっ!」 くすぐったいようなヘンな感じに、夢の中でのくすぐったい場所は性感帯になると言う沢の言葉を思い出し、顔が赤くなる。 「ひぅっ!んっ…やめっ…ひゃっ!んんっ!」 舌と唾液の絡んだ音が直接耳から脳に入り、その音だけに体中が支配されていく。 「ふぅんん…くぅっ!あっ…はぁあ…」 裸のままの体にかかっていた毛布が落とされて、我慢できずにこすりつけていた足を引き離すように一の足が入り込んでくる。 「はぁああっ!…やめて…やめっ…や…て…やめ…っくぅああああああっ!」 先程まで一ので散々突かれていたとはいえ、まさかいきなり一のが入ってくるとは思わずその突然の軋みと痛みに絶叫した。 「全、気持ちいいか?ん?俺に痛くされて、辛くて嫌なはずなのに、お前のもすっげー反応してるし、中も俺を搾り取ろうとしてくる…これで嫌だって言ってもさぁ…真実味なんか微塵もねぇ…よっ!」 激しく動く腰に、一の言う通りその与えられる痛みを快感に置き換えて声を上げる俺。ギッギッとリズム良く鳴るベッドの音に物足りなさを感じていると、一が手に持った鎖をまるで俺の心の内を見透かしたように取り出し、俺の目の前で振って音を出した。 「そんな物欲しそうな顔すんなって!これが終わったら仕置きの後でつけてやっからさ…まずはイけよ!」 「し…おき…?」 「あぁ、俺を…あぁ、違ったな…私を一と呼んでくださらない全様に、私からお仕置きをさせていただきます…動きを制限するにも丁度いいので。ただ今回は久しぶりですから…足だけと思ったんですが、こうやって痛みが気持ちいいいと喘ぎよがるはしたない全様には…手も追加した方が良さそう、ですね?なんと言っても私は、全様に気持ち良くなっていただきたいですから!」 「…っやだ!やめてくれ!!痛いのは…あれは…嫌だ!!」 涙を流す俺に一はにっこりと微笑んで腰を動かしたままで俺の片足を持ち上げた。 ぐっと一の腰が奥に入り、腰が仰反る。それを見て俺の足首に唇を当てた。 「気持ちいいのと痛みが交われば、全はもっともっと気持ち良くなれるよ…だから、いい子だ、全。それと嫌がらなきゃ仕置きにならねぇ…んだよっ!!」 ぐぅっと奥に力が入り、同時に痛みが全身を電流のように駆け巡る。 「ぁあ…ぁ…ぁあーーーーーーーーっ!!」 叫びながら果てた俺を一が唇を舐めてニヤリと笑った。 あと、3回… 頭の中で減っていく数。だが、終わりまで数える事なく俺は意識を手放した。

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