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第90話

何度熱を吐き出しても、身体の熱は冷めるどころか、逆に増すばかり。 何度も刺激を与え続けたそこはもうジーンと痺れた感じになり、気持ち良さよりも痛みの方を強く感じるようになっていた。それでも溜まり続けていく熱を吐き出さなければと焦る身体は、そこの代わりとなる場所を探そうと腰をくねらせていた。 「くぅん…ここ…ちがう…んっ…ちが…っぅうん…これじゃあ、イけな…い…んっ!」 こそばゆい刺激では身体の熱を押し出す事もできず、疼く腹の奥に溜まる欲望に届く刺激を求め、痛む足のことも忘れて必死に力を入れて身体を捩る。 「こんなんじゃ…届かない…もっと…もっと奥ぅ!奥に…欲し…っぃい!」 「誰のが?」 突如聞こえた声に驚愕して、瞑っていた目を見開く。 扉を開けてこちらをじっと見ている一が見え、俺と視線が合うとニヤニヤと笑って口笛を吹いた。 「すっげ!全の一人でやるの今までも見たことあるけど…今日のはむちゃくちゃエロいじゃん!俺が扉開けても気がつかないくらいに大声上げて、腰揺らしてくねらせて…そんなにそのおもちゃがいいの?」 ちょっと妬けるなぁ。 そう言った一の目の奥がぎらっと光り、おもしろそうに笑っていた顔は獲物にとどめを刺す獣のそれに変わった。 「来ない…でよ…やだ…来な…い…で…来るなぁ!!やだ!!!やっ…来るなぁあーーーーーっ!!!!」 まるで本物の獣みたいに俺に近付き飛びかかるようにベッドに上がって跨ると、俺の口を手で塞いだ。 「しーーーーーっ…大丈夫。誰もお前を食うわけじゃないんだから…な?」 ふふっと笑う一にこくんと頷くが、置かれた手はどくことなく口を塞いだまま。 「んっ!んんっ!」 どかしてくれと呻き声を出して頭を振るが、一はそれを無視するように一向に手は口に置いたままで話し出した。 「うわっ!シーツびしょびしょ!へぇ?卿がくれた媚薬…これはいいや。使えるって後で報告してやんなきゃな…さてと、なぁ全?」 ようやく一がどかそうとした手に無意識に追い縋るように、動かせない頭をそれでも上げて舌を絡める。 「おいおい…おまえ素なんだよな?まさか、ヒートが来てる…なんてオチじゃないよな?」 「や…だ…のに、ほし…の、我慢でき…な…ん…指…入れて…」 「すげぇな。全が素で俺にねだって指まで舐めるのか…なぁ、俺をどう思う?」 俺はずっと欲しかった一のが目の前にあって、一刻も早くそれで奥を突いてこの溜まった熱を吐き出したくて苦しくて仕方ないのに、こうやって面白そうに俺を見つめているだけの一にいい加減イラついていた。 「嫌いだ!一なんか嫌いに決まってる!俺がこんなに辛くて苦しいのに、意地悪ばかりで…一をどう思うって?嫌いだよ!大嫌いだ!」 怒りをぶちまけると舐めていた舌を口に戻し、頭もベッドに下ろしてぷいと横を向く。 しばらく何事もなく静かな時間が過ぎていった。 おかしいな? 一の何も言わないのを不思議に思いそっと一を見ると、一が俺をにまぁとした顔で見つめていた。 「…んだよ!気持ち悪いな…」 再び横を向こうとした俺の頬を両手で挟み、ヘラヘラと笑った顔を近付けて囁いた。 「言ったな、一って。」 「え?!」 「言ったろう?一なんか嫌いだって…一って俺のこと呼んだよな?」 はっと思い返し、言った事を思い出す。 あまりにイライラしていたので、何も考えずに心の中で呼んでいたままに、口から出してしまった。 「あ…嘘!あれは違う!間違い!間違いだって!」 いくら言い繕っても、一度出た言葉が口の中に戻る事はない…言ってしまった事を後悔しても、聞いた一がそれを忘れてくれるわけもない… 「もう一回、一って呼べよ?ん?そしたらご褒美に、俺のを入れてやるからさ。」 「…やだ…呼ばない…」 一の頬を挟む両手を外させようと頭を振る俺を驚いたように見つめた一が、少し考えるような顔をして、手に力を込めた。 「痛っ!離せ!はなせ…ぅあっ!」 足の間に一の膝が割って入り、俺の中のモノを押し付けるように膝を動かした。 「やだぁ!やめっ…いっ…んんっ!ひぃあああああっ!だめ!もう…っめぇえーーーーーっ!」 「誰のが欲しいのか言えよ?なぁ、全…俺は誰だ?おまえが腰を振るほどに欲しくて欲しくてたまらないのは誰のだ?」 「い…じ…わるばっ…か…」 俺の必死に絞り出した言葉も一は吹き飛ばして俺に詰め寄る。 「言えよ?誰のが欲しいのか…言えよ?」 「言わない…まだ。決めたから…言わない…って」 「頑固だな…」 ギリっと歯を噛み締める一の顔が歪む。 まだ言うわけにはいかない。 そう決意する顔をした俺を見た一の口が耳元に近付き、舌を入れながら囁く。 「ふぅん…だったら言わせてやるよ…」 脳に響く声。ゾクっと背筋が凍るが、ぐっと奥歯に力を入れて俺は固く口を閉じた。

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