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第99話

「はぁ…くそっ!」 一が怒ったような顔でベッドから下りる。 俺はその声にビクッと反応するが、一はそれを横目で見ただけで無視をしたまま歩き出した。 「…やっぱり、開かねぇか…ったく!」 扉に行き、カチャカチャとノブを回してみるが、外側からかけられた鍵は開くことはなかった。 俺を閉じ込めようとして作った物に自分が閉じ込められるなんて… くくくと笑いが口から出た。 「………。」 そんな風に笑っている俺を一が唖然とした顔で見ているのが見え、俺は笑うのをやめようとしたが、止まらずに涙まで出て来る。 「んんん。」 ごめんと言いたいが、それも出来ずに笑いが込み上げる。 「何?」 「んんん。」 何でもないと言おうとしたいが、拘束具が邪魔で喋れない。 「んっん!んっんんーー!」 これでは埒があかないと、この邪魔な物を取って欲しいと声を出し頭を振る。 「分かったよ。」 一が渋々ベッドに戻って来ると俺の口を自由にしてくれた。 「さすがに…匂うな。」 ようやく自由になった口を開く。 「俺の匂い、分かるのか?!」 もしかしたらとは思っていたが、やっぱりαに戻っていた。一がαに…。 俺の視線に気が付いた一が赤くした顔を俺から見えないように背けた。 「だから?お前には関係ないだろう?」 つっけんどんに言うと、ベッドから離れようとする一に俺が声をかけた。 「待てよ!俺とはもう関係がないなら、お前が俺の番として命じていった、この拘束も解いてくれ。」 一の足が止まり一瞬のためらいの後、下を向いたままでベッドに戻り、手足の拘束も解いていく。 自由になった体をベッドの上で起こし、窓から見える陽射しに目を細める。 「これで俺も自由なんだな。自由…だろう?」 一が俯いたままで頷いた。 「あぁ。」 そう言うと部屋のソファに向かいどかっと座る。 俺の匂いで充満するこの部屋で、一が俺に手を出さない。今ならこの匂いを言い訳にして、俺を無理やり番にすることもできるのに。 一は俺を番にする気はないんだ… 寂しさに涙がじわーっと目に溜まっていく。それを一にわからないように拭きながら、窓のそばに体を寄せる。 さすがに俺の匂いのする部屋ではその衝動を我慢するのもキツイだろうと思い、換気すれば少しは一が楽になれるだろうと考えた俺は窓を開けようと手を伸ばした。 その時、背後からいきなり腕を掴まれて、一の胸に抱き寄せられた。 「え?!」 「何してんだ?!」 振り向いて仰ぎ見た一の顔が青ざめている。それで、俺が窓から飛び降りると勘違いしたのだとわかり、笑ってはいけないと思いながらも、またもや込み上げて来るものを我慢できず、肩が震えた。 「俺と番になるのが死ぬほど嫌ならそう言えよ。大丈夫だからさ…俺、お前には手をださねぇって決めたから。そんな事するなよ。」 今度は俺が泣いているとでも思ったらしく、そう諭すように言うと俺から離れようとした。 「行くな!」 俺の手が口が、俺の許可も得ずに勝手に動いた。 「え?!」 俺に掴まれた手を呆然と見る一。俺はその行動に背中を押されるように、一回大きく呼吸をすると一の手をもう片方の手でも掴み、自然に言っていた。 「行かないでくれ、一。」 「俺の、名前…」 目を見開いて、手から俺に顔を上げて視線を移す。そんな一の顔を見ながら悔しいなと言う顔をして、少しふざけたように言う。 「あーあ、ついに呼んじゃったか…うん、言ったよ。今度は本当に呼んだ。一って。」 「本当に?」 「あぁ、本当に呼んだ。一…一。」 俺が名前を呼ぶ度に一の顔がくしゃくしゃになり、その目から涙が頬を伝っていく。 「泣くなよ。名前を呼んだくらいでさ。」 馬鹿だなと指で一の涙を拭うと、その手を一が掴んで自分の頬に当てた。 「暖かい…夢じゃないんだな?全が俺の名前を呼んでくれたの…」 「あぁ、夢なんかじゃないよ…一。」 「なら、何で死のうと…」 「それは一の勘違い。ただ換気をしようと思っただけだ…くくくっ。」 思い出したら可笑しさがまた込み上げて来て笑ってしまう。 「なんだ…って、さっきも笑っていたのか?!」 肩の震えを泣いていると勘違いしたのは一だろうとも思うが、おかしくて話が出来ない。あまりに笑い続ける俺に、一が少しムッとする。 「そんなに笑うなよな!」 「くく…ごめん…でも、くくく…おかしくて…嬉しくて…止められないんだ…くくく。」 「嬉しい?」 「ようやく一って呼べた。こうやって一と話せた。それが嬉しくて…嬉しいんだよ、俺。」 一に言い聞かせるように言うと、一の顔が茹で蛸のように赤くなっていった。 「でも、お前は俺を恨んで…いるだろう?」 一の顔に翳りができる。 「そうだね。恨んでいるし憎んでる。この気持ちに嘘はつけない…だけど、その負の感情も含めて一への感情だって分かったんだ。俺が一を形成するのに必要な感情。だからきっとこのことで喧嘩もするだろうし恨み言も言うと思う…でもな、俺にはそれらを覆えるだけの一への愛があるって分かったんだ。だからもう大丈夫…一、もう一度俺と番になってくれないか?」 「え?!」 一がわけがわからないと言う顔で俺を見つめる。 俺もこんなに素直に自分の心の内を曝け出し、番になりたいと言えてしまったことに、自分のことながら驚いていた。   でも、もう後戻りはしない! 一に向き直って少し声を大きくして迫った。 「俺の一世一代の告白!受けない気か?!」 「だって、全からそんなことを言われるなんて…思ってもいなかったから…」 「じゃあ、俺の手を離せよ!忘れてるようだけど、俺はヒート真っ只中なんだ。シてくれない奴に用はない。さっさと他のαを連れて来てくれ!」 一の有耶無耶な態度にイラッとなった俺が捲し立てた。 「…っざけんな!誰が他のαなんかに渡すかよっ!」 離そうと掴まれた手を振っていた俺をベッドに押し倒す一。 その顔が今までの自信なさそうな表情から一転、雄の顔に変わった。 ごくりと俺の喉が鳴る。 「本当にいいんだな?もう絶対に逃がさねぇからな!拒否するなら今の内だぞ!」 「拒否?俺が番にしろって言ったのに、するわけないだろ?それともビビってんのか?俺の全てを受け入れる事に。」 「はぁ?!ふっ…ふふふ…ははは!」 笑い出した一を見て、俺も可笑しさが込み上げ、一緒に笑い出した。 「笑うなよ。」 「一こそ、笑うなよ。」 顔を見合わせて笑い続けた二人の顔が自然と近付き唇が合わさる。 「もう、離さない!全は俺のだ!!」 こくんと頷いた俺を抱きしめた一の舌が俺の舌と絡まり、熱くなる体に反応した俺の匂いが部屋中に充満していった。

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