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第101話

「それで、ようやくお二人が番になれたと…まったく一様は。」 はぁと夕がため息をつく。 一と無事に番となった次の日、一は体を離した後で俺をまたもベッドに拘束した。 口だけはなんとか許してもらったが、再び番となった俺を今度は絶対に逃しはしないと、一は番となった記念なと訳のわからないことを言いながら嫌がる俺の両手首と両足首を微笑みながら折った。 その治療に呼ばれた寒の後ろから車椅子に乗った夕が顔を出したのを見て、俺は一瞬痛みも忘れて喜んでいた。 「夕!?大丈夫なのか?動いても平気なのか?」 「全様、私は医者ですよ?後遺症が残ったり、長引くような怪我はさせません。」 寒はそう言いながら、車椅子を押してベッドの側の治療の邪魔にならないところに止めた。 「全様も躊躇いのない綺麗な折られ方で…」 素晴らしいとでも言いたそうな寒に夕と顔を見合わせて苦笑する。 「そしてこちらも、良い噛み跡が付いていますね。」 「あ…」 言われて恥ずかしさに顔が熱くなる。 「え?!ついに一様を受け入れたんですか?名前を呼ばれたんですね?どんな感じで番になったんですか?」 夕の矢継ぎ早の質問に、今度は寒が大きなため息をついた。 「まったく!あれだけの仕置きをしたと言うのに、まだ分からないんですか?」 寒の言葉に夕が俯いてごめんと言いながら、俺だけに見えるように舌を出した。 クスッと笑う俺に、夕もふふっと笑う。 穏やかな時間の中、俺は一と番となれた話を夕にしていた。 「でも、確かに後天的Ωがαに戻ったと言う話は聞きませんね。」 寒が俺の治療をしながら口を開いた。 「話を聞いた限り、沖さんと番の時のヒート中に一様を見ても恐怖はなかったが、その精液の効果はαのまま。それでは全様に番のない状況では一様がαに戻ったか自信がないと言うのも頷けます。」 そう話しながら、今度は車椅子を少し動かして俺のうなじの治療を始めた。 「でも、ヒートの全様の匂いが分かったなら、それがαの証じゃない?」 夕が首を捻りながら寒に尋ねる。 「でも、一は俺の匂いで卿みたいにはならなかったよ?」 「そうなんですよねぇ。βの私でも感じるほどの強く甘い匂いでしたから、αに戻っていた一様では到底我慢が…」 皆で頭をひねるもやはり分からない。 「簡単な事だ。」 突然、扉が開いて一がそう言いながら入って来た。 「どう言う事?」 俺の問いかけに一は寒にもういいかと尋ね、頷く寒を見てそうかと言いながら、俺の顔近くのベッドの端に腰掛けた。 寒が夕の車椅子を動かして自分のそばに寄せる。 「分からないのか?」 一に逆に問われ頭を横に振って、分からないと答える俺に微笑みながらうなじの噛み跡に手を伸ばす。 「俺はお前をずっと愛していたんだ。気が付いた時にはそうだった。大きくなるにつれ、お前を俺のモノにしたいと言う欲望がどんどんと大きく膨らんで、ずっと頭の中でお前を犯し続けていた。」 「やめてよ…」 顔を赤くする俺とは反対に夕と寒は好奇心を隠さずに一に先を促す。 「もう!自分達のことじゃないから…やめてよ、一。」 「だって、何でお前の匂いでおかしくならないのか聞きたいんだろう?」 一の目が意地悪く光る。 嫌な目だ… 俺がじっと見つめているのに気が付いた一が、二人からは見えないようにしながら手を掛かっている布の間に入れて来た。 「え?!」 「どうかしたか?」 何食わぬ顔で一の手が俺の下半身に伸びる。 「っ!」 危うく出そうになった声を唇を噛んで止める。 「俺はそうやってずっと全を頭の中で抱き潰して来たんだ。愛と共に…」 ぎゅっと握られて腰がビクッと跳ねる。 「い…ち…やめて…」 「え?!だってこれから何で一様が全様の匂いに平気かって話になるのに?!」 夕の言葉にそうだよなぁと答えながら一が今度は先端をぐにぐにと弄る。 「くぅっ!」 漏れ出た声でバレたかと思ったが、夕達には聞こえていなかったらしく、一に話の続きをするよう促していた。 「簡単に言ってしまえば、俺は全をずっと愛してて抱きたくて、その強い衝動を長い事ずっと我慢して来た。今更匂いでおかしくなっても、それは俺がずっと全に抱いていた強い衝動を我慢していたのと比べれば、なんて事はなかったって事さ。」 「あの匂いよりも強い…?」 寒が驚きの声を上げる。 「あぁ。なんたって俺は腹の中にいる時から全しか見ていなかったんだ。その全てを俺のモノにして、一つになるのが俺の願い。」 そう言っている間も一の手は止まらず、俺は声を上げたいのに上げられず、一の顔を潤んだ瞳で見つめていた。 「さて、こんなんで納得してもらえたかな?」 一が寒に目配せをする。それに気が付いた寒が、そうですねと言いながら夕の乗った車椅子を押して踵を返した。 「え?!僕もっと話がしたいのに!」 「夕、いまだに君は私の言ったことが理解できていないようだ…これからもう一度その身に解らせてあげよう。」 「え?!いやです!僕、僕、また全様に会えなくなってしまうの嫌です!」 「寒…俺からも…んっ!」 「痛むの?!全様、大丈夫?」 夕が俺の上げた声に心配する。 それを一が俺をニヤニヤと見ながら代わりに答えた。 「全は俺がついているから大丈夫だ。寒、全が夕に会えないと寂しがる。ここに来られる程度の仕置きにしておけ。これでいいんだろう?」 ん?と俺の顔を見つめる一にうんと頷くのが精一杯だった。 実のところ、一の手は既に俺の中に侵入して指を増やしていた。もう、一のが欲しくて苦しくて気持ち良くて、かけた布の中でビクビクと震える身体がバレない内に夕にだけは早くこの部屋から出て行って欲しくて、見られたくなくて、必死に声を出さぬように唇を血が出るほどに噛んでいた。 「それでは…」 ようやく寒が扉を開けて車椅子を廊下に出す。これでようやくバレずに済むと思ってホッとした瞬間、一が俺をチラと見て何かを考えるかのように口を閉じると、頷いていきなり夕と名前を呼んだ。 「なんですか?」 車椅子から体を伸ばして扉から顔を出した夕の目の前で、一の手が俺の痴態を隠していた布にかかった。 「やめっ!」 俺が気が付いて声を出すが、それと同時に布が空を舞って床に落ち、俺の痴態が夕の目の前に晒される。 「全…様…」 夕の顔が真っ赤になってハッと気が付いたように目を逸らした。 「何を子供じみた真似を?!」 寒が一を嗜めるような声を出したが、一はそれを気にもせずに俺の中の指を激しく動かし出した。 「ひぁあああああっ!やだ!見な…っでぇ!んんっ!いやぁあーーーー!」 泣き喚く俺の口に自分の唇を重ねて静かにと言うと、一がそのままの格好で寒に言った。 「お前達もここでしろ!」 「は?!」 「夕は後天的Ωとは言っても、元々はαだ。この先、全と仲良くするのは構わないが、α性が出て全に手を出すようなことがあっては困る。だからお前達もここでしろ。そして、夕の潔白を俺に示せ!」 「嫌…です…僕…」 「一様、夕には手は?」 「出さねぇよ!お前も全に手は出すな!」 「主人に手を出すほど欲求不満ではありませんので。」 そう言うと、寒が車椅子を再び部屋に入れて扉を閉めた。 バタンという音と共に訪れる重苦しい沈黙。 俺と夕は顔を見合わせてから互いの相手に目をやり、同時に叫んでいた。 「嫌だーーーーーー!!」 「やめてよーーーーー!」 二人の声は反響するが、それは抵抗にはならず。 俺は跨る一の下で、夕は抱き上げられてソファの上に寝かされた寒の下で涙を流しながらうなじに歯を立てられていた。

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