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1.ミオとの出会い(3)
「顔を洗ったら、朝ご飯作るからちょっと待っててな」
「うん」
今日は日曜日。
テレビから流れる朝の情報番組をBGM代わりにしつつ、俺は二人分のスクランブルエッグを作る。
ミオはこの時間帯のテレビ番組が珍しいのか、テレビの前で女の子座りをして、食い入るように映像を見ている。
「この番組を見るのは初めて?」
俺は朝食の味見をしながら、何気なく聞いてみた。
「うん。あの施設にいた時は、テレビなんてほとんど見られなかったの」
「へぇ、そうなのか」
「園長先生が『キョーイクによくない』からって」
「アニメもだめだったのか?」
「アニメってなーに?」
その返事に一瞬耳を疑ったが、テレビを見ること自体を制限されていたら、何がアニメなのか分からないのも無理からぬことかも知れない。
「えーとな。ちょっとチャンネル変えていいかい?」
「うん」
俺はテーブルに置いてあったリモコンを手にとってチャンネルを変え、ちょうど放送中だった子供向けのアニメを見せてみた。
「これがアニメだよ。絵が動いてるだろ?」
「わぁ、こんなの初めて見るかも。すごいね」
ミオは目を輝かせてアニメに釘付けになっている。
この子がいた施設は教育施設だということは理解していたが、まさかアニメすら見せないほど厳格な方針だったとは。
もし俺がミオを引き取らなかったら、ミオはたぶん今後も当分はアニメに触れる機会はなかったのだろう。
そう考えると気の毒ではある。
「さ。ご飯できたよ、食べよう」
「はーい」
食卓に焼き立てのトーストとスクランブルエッグを並べ、コップには新鮮な牛乳を注ぐ。
今まで朝飯なんてまともに作ったことはなかったが、これもミオのためだと思って、ヘタはヘタなりに腕をふるってみたのだった。
「いただきまーす」
ミオはマーガリンとブルーベリージャムがたっぷり塗られた、カリカリのトーストを美味しそうにかじる。
よかった、どうやら今日も口に合ったみたいだ。
明日の月曜日からは、ミオが近所の小学校に通うことになることになっている。
朝食はこんな感じだし、夕食もスーパーの惣菜を買ってきて盛り付けてるだけだからすごく申し訳ないのだが、昼食だけは学校の給食があるので、栄養に関して心配することはないだろう。
ただひとつ気がかりなのは、大人への不信で心を閉ざしてしまったミオが、学校での共同生活になじめるかどうか、ということ。
もしミオが先生に反発したり、クラスメートにいじめられたりしたら、俺は一体どうするべきなのだろうか。
この子を引き取って一週間、もう俺の心境は完全に子供を持つ父親のそれである。
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