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1.ミオとの出会い(4)
「ん? どうしたのお兄ちゃん」
ミオが不思議そうな顔をして尋ねてくる。
俺はミオのことを案じるあまり、いつの間にか食事する手を止めてしまっていたらしい。
「あ、いや。ちょっとな。明日からミオが行く学校のことを考えてたんだ」
「学校の?」
「うん。ミオが学校の勉強に馴染んでいけるかとかさ、いろいろな」
俺は微妙に答えをはぐらかした。
あんまりストレートに学校生活のことを考えていたと話して、変に意識させてしまうのはよくないと思ったのだ。
「大丈夫だと思うよ。ボク、お勉強は好きだもん」
「そうなんだ?」
「うん。施設にいた時も、ボク一生けん命勉強したから、先生がいっぱい褒めてくれたんだよ」
「そっかぁ、偉いな。じゃあ通知表を見るのも楽しみになるな」
「ツウチヒョウ?」
「あ。通知表ってのは、そうだな……学校の先生が学期末に渡してくれる書類なんだけど、ミオがどれだけ勉強を頑張ったかとか、学校でどんな子だったかを教えてくれるんだよ」
「へぇ、学校ってそんなのがあるんだね」
「俺が子供のころは算数が苦手でなぁ、悪い方の1とか2を取って、よく親に怒られてたもんだよ。ははは」
と笑いつつ、ついうっかり自分に親がいることを話してしまったので、身寄りのなかったミオに気まずい思いをさせてしまったのではないかと心配になった。
「……お兄ちゃんの親って、怖かった?」
当然、こういう質問が飛んでくる。
仕方ない、ヘタに隠しても不審がられるかも知れないし、ここは正直に話してしまおう。
「んー、そうだな。どっちも普段は優しいけど、怒った時は怖かったよ。さっきの算数の成績とか、あとは家の窓ガラスを割ってしまった時とかな」
「窓ガラスを割っちゃったの?」
ミオが驚いたように聞き返す。
「うん。と言ってもわざとじゃないんだぞ? 家の庭で友達とキャッチボールをしてた時に、スライダーがすっぽ抜けてさ……」
「そうなんだ。お兄ちゃん、元気な子供だったんだね」
「はは、言うほどでもないよ。それに、キャッチボールくらいはミオでもやったことあるんじゃないのか?」
「ボク、運動はあんまり得意じゃないから、キャッチボールとかしたことないんだ」
まぁ、ミオのその細い体つきを見ると、あまり活発な子供ではなかったであろうことは想像に難くない。
「じゃあ、かけっことかは?」
「かけっこは何度かしたことがあるけど、ほとんどボクが一番最後だったよ」
「そっかぁ。学校でも体育っていって運動する授業があるんだけど、ミオはついていけるかな」
「わかんない……」
ミオの表情が曇った。
「あ。いや別に、成績がよくなくても、俺は怒ったりしないからさ。心配しなくてもいいよ」
「うん。ありがと」
そう言って、ミオは食パンをもうひとかじりした。
いろいろと気を遣う会話だったが、これでまた少し、ミオのことを知ることができたと思う。
この子は勉強は得意だけど、運動が苦手。
不得手な部分を叱ったりするんじゃなくて、いいところを褒めて伸ばしてあげられれば、ミオもきっと自信を持って勉強に打ち込んでくれるはずだ。
子育てはこれが初めてだけれど、俺はそういう教育方針で行こうと心に決めた。
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