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3.会社にて(2)
――ひたすら電卓を叩き、ペンを走らせることおよそ三時間。ようやく、明日提出する予定だった書類の整理を終えた。
時刻はもう、夕方の六時を大きく回っている。
休み明けの月曜日で気だるいからか、今日は残業する社員も少ないようだ。
役職者や事務員は毎度のごとく定時退社。
まだ陽も残っているこの時間帯、社内に残っていたのは俺のほか、同僚がほんの数人だけだった。
今日やるべき仕事は全部やってしまったし、何よりミオの事が気になるから、俺ももう帰るとしよう。
「お、柚月。もう帰るんか?」
帰り支度をしている俺を見て、同僚の佐藤が声をかけてきた。
佐藤と俺は同期なのだが、関西から上京してきた佐藤は、入社して五年が経った今でもまだ、地元の関西弁となまりが抜けない。
「ああ、今日はちょっと用事があってさ」
「なんや用事って。おネエちゃんとでも飲みに行くんやったらオレも誘ってぇや」
「まさか。俺に女っ気がないのはお前もよく知ってるだろ。今日は家の用事なの」
「用事? もしかしてお前が引き取った子供の世話か?」
「まぁ、そんなとこだよ」
「男やもめで里親とかようやるなぁ。はよ嫁はん貰いーな」
「うーん、いい人がいたら俺も結婚したかったんだけどな……」
「ほな、今度合コンでもやるか? オレがセッティングしたるで」
と、佐藤が食い気味で話を持ちかけてきた。
「えっ? い、いや、それはやめとく」
「はー、お前は相変わらずビビリやのう」
俺の気のない返事を受けて、佐藤はあきれ顔でため息をつく。
「なぁ柚月、お前一回や二回フラれたからって落ち込みすぎやねんて。合コンなんて数こなしてナンボのもんなんやで、気にせんと次々行かな」
「そうかも知れないけど……今はちょっとそういう気分になれないんだ」
「何でや?」
「だって、子供に留守番させて自分は合コンとかさぁ、それって里親としてどうなのよ」
「うっ、確かにそれはそうかも知れんけども」
「それに、まだあの子を受け入れて日が浅いんだから、今はそういう事は考えられないよ」
「うーん……でもなぁ」
佐藤はまだ食い下がろうとしているようだ。これ以上話が長くなったら、さらに帰りが遅くなる。
女に縁のない俺の事を気にかけてくれている佐藤には悪いが、今日ばかりは退散させてもらおう。
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