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4.記念日(3)
「ふぅ。お疲れさま、ミオ」
「お兄ちゃんもお仕事お疲れさまだよっ」
「うん、ありがとな」
こんな風に、親以外の人にねぎらいの言葉をかけてもらったのって、一体いつ以来だろう。
俺に彼女がいたのは果たして何年前だったかな、たぶんその時以来だ。
あの時は毎日、帰宅後に携帯電話でメッセージのやりとりをしていて、まるで一緒に住んでいるかのような疑似体験を味わっていた。
結局、その彼女とも長くは続かなかった事から、俺はもう、恋愛や結婚には向いていない人種なんだと察してしまったのだ。
そんな俺を、今、唯一慕ってくれているのがミオという存在。
きっかけこそは偶然の出会いだったけど、今はミオがいてくれてよかったと思っている。
守るべき大切な人ができたことで、俺はこれまで以上に仕事を頑張れるようになったのだから。
「じゃあ、ご飯の用意するからちょっとだけ待っててな」
俺はそう言いながらスーツをハンガーにかけてネクタイを外し、シャツを緩めてラフな格好をとった。
「はーい」
手を洗いに行った洗面所の方から、ミオの元気いっぱいな返事が聞こえてくる。
ご飯の用意とは言ったが、米はすでに炊き上がっているので、やる事といえば、買ってきたおかずの惣菜を電子レンジに並べて温めるだけである。
「わぁ、今日もおいしそうなおかずがいっぱいだね」
手を洗い終えたミオが、テーブルに置かれた惣菜たちを、目をキラキラさせながら見つめている。
「今日はお祝いだから、ちょっとだけ豪華なおかずにしたんだ」
「お祝い?」
「そう。ミオが学校に初登校した事のお祝いだよ。めでたい日にはお祝いしなくちゃね」
「お兄ちゃん……」
「これから先、めでたい事があった日は、こうやってお祝いしようよ。初めて二人で一緒に暮らすようになった日を記念日にしたり、あとはミオの誕生日とかさ」
「うん、ありがとう。嬉しいよ」
俺のお祝いがよほど嬉しかったのか、ミオはまばゆいほどの笑顔を見せ、大きく頷 いた。
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