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4.記念日(4)

「でも、ボクの誕生日っていつなのかなぁ」 「ん? 確か、来年の六月五日じゃなかった?」 「それって本当は、ボクが施設に引き取られた日なんだよ」 「あ……」  ミオは二歳のころに生みの親に捨てられ、児童養護施設に引き取られている。  生みの親はミオを置き去りにしていった時に、自分たちはもちろん、ミオに関する個人情報をもほとんど残さなかったのだ。  ミオの生年はかろうじて分かったものの、何月何日に生まれたのかは不明のままなのである。  ちなみに〝未央(みおう)〟という名前が判明したのも、二歳のミオが着ていた服に、マジックペンで小さくそう書かれていたからだ。  唐島(からしま)という名字は、ミオを引き取った当時の園長先生が、自分の名字を分け与えてつけた仮のもの。  そういう背景があったという事は、ミオ本人も充分承知していたのだった。  だから自分につけられたあらゆる個人情報が、ほとんどが本当のものではないものばかりだという事は、当然理解しているのだ。  俺はとんでもない事を口走ってしまった。  里親になる前に誕生日の件は知っていたにもかかわらず、めでたい日で浮かれていたからといって、ミオが知りたくても知ることができない生い立ちの事を思い出させてしまったのだから。 「ね。お兄ちゃん。ご飯食べよ?」  言葉を失ってしまった俺に、ミオが明るく振る舞う。 「あ、ああ。ごめんなミオ」 「ん? どうして謝るの?」 「だって俺……」 「あ。もしかして、ボクの誕生日の事を気にしてるの?」 「うん。嫌なことを思い出させちゃったんじゃないかなって」 「お兄ちゃん……優しいね」  そう言うと、ミオはうなだれる俺に抱きつき、顔を見上げて微笑んだ。 「ボクね、自分の誕生日が本当の誕生日じゃなくても、大好きなお兄ちゃんがお祝いしてくれるだけで幸せだよ」 「ミオ……」 「だから、もう気にしないで。ね?」 「……うん。ありがとな、ミオ」  ミオの健気さに、俺は思わず涙が出そうになった。  まだまだ小さな子供なのに、もう、こんなにできた子に育っていたなんて。 「よし! じゃあ、冷めないうちにご飯食べちゃおう」 「はーい!」  ミオは満面の笑みで、元気よく返事した。  俺たちはちょっと遅めの夕食をとった後、お互いの一日の出来事を語り合ったり、一緒にテレビを見たりしてから、夜が更ける前に床についた。  ――この先どんな事があっても、絶対にこの子だけは幸せにしてあげよう。  俺は横で眠るミオのおだやかな寝顔を見守りながら、心の中で、改めてそう誓ったのだった。

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