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8.初めての体育(4)
いかにショーツ姿が似合っていて違和感ゼロとはいえども、ミオは男の子だ。
学校のクラスメート全員が、俺や園長先生みたいに理解のある人間ばかりだとは限らない。
ミオの穿いているショーツを見て、からかったり、あるいは変な気を起こしたりする子が出てきやしないだろうか。
もしかすると、それがきっかけとなってミオに〝悪い虫〟がつくおそれがあるかも知れないわけで、それが気がかりなのである。
……さすがにそこまでは考えすぎかなぁ。
まだお互い小学生だし、男の子が男の子に対して、そんな特別な感情を抱いたりはしないかな?
でもショタっ娘のミオの事だから、可能性がゼロだとは限らないわけで、やっぱり心配だ。
体操服に着替える時のためのカモフラージュ用に、あらかじめ男用の下着を買い与えておくべきだったか?
いや、それではミオに自分を偽らせる事になってしまうからダメだな。
うーん、一体どうすりゃいいんだ。
「ねえ」
腕組みをしつつ眉間を押さえて考え込んでいると、後ろからミオが抱きついてきた。
「えっ? な、何かな」
「さっきからずっと考え事してるー」
「あ。ごめんよ、もう寝なきゃだな」
「お兄ちゃん、もしかしてボクが穿いてるショーツの事を考えてたの?」
「……うん。クラスメートの男の子たちが見たら気にするのかなー、って思って」
と、さりげなく、自分の心配事をオブラートに包んで打ち明けてみた。
「んー。気にする子もいるかもね」
ミオが人差し指を頬に当て、目線を斜め上に動かしつつ、何かを思い出すように答えた。
「ボクが施設にいた時も、他の男の子に『違う下着穿いてる』って言われた事あるよ」
「え。それって下着を見られたって事?」
「うん。夜寝る前にみんなお着替えするでしょ? その時にお互いのを見てたと思うよ」
やっぱり見るよなぁ、その下着だもんな。
何しろ男の子が女ものの下着を穿くのだ。これが注目を浴びないはずがない。
だからこそ、その注目が変な方向にエスカレートしないかどうか、心配になるのである。
こんな心配をするのは今さらだったな、どうしてもっと早く、この事に気づかなかったのだろう。
いや、仮に気づいていたとして、何か対策を講じることができたかというと、答えは否 である。
体育のある日専用として、あらかじめ、男ものの下着を買い与えるという作戦は先程却下した。
それはミオのアイデンティティーを否定する事になるからだ。
水泳の授業の前に水着へと着替える際、股間部分を隠すためにタオル生地の腰巻きを穿くことはあるが、それを体操服の時に穿かせていては、より一層目を引いてしまう。
ミオは女の子寄りのショタっ娘だから、女の子たちと一緒に別室で着替えさせたい……なんて要望が通るはずもないだろうな。
下着姿を見せないようにするために、体育を休ませるなど、もはや言語道断。
後は、後は……やっぱりだめだ、もう万策が尽きた!
ミオ、許してくれ。俺が学校へ通わせる事にしたばかりに――。
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