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8.初めての体育(5)

「またお兄ちゃん考え事してるー」  ひとり頭を抱えている俺の顔を、ミオが覗き込んできた。 「今度は何の考え事?」 「いやその、ミオが学校でショーツを……」 「えっ、まだその事を考えてたの?」  ミオが呆気にとられたような表情を見せる。 「だってさぁ」 「お兄ちゃん知ってる? 今は〝ダンジョケンヨー〟のショーツがあるんだよ」 「ん? 男女兼用?」 「そ。男の子も穿けるショーツの事なんだけど、見たことない?」 「いや、全然知らない。というか、下着に男女兼用のがあるってのがまず初耳だよ」 「そうなの? クラスメートの子とか、同じ学年の男の子も半分くらいが穿いてるらしいよー」 「ええっ、ほんとに?」  俺は驚いて聞き返した。 「うん、ショーツの方が動きやすいんだって。それに、ブリーフってあんまりかわいくないでしょ?」  そう言ってミオは、寝間着の下を少しずらし、自分が穿いているショーツをチラ見せしてくれた。  今日のショーツは明るい色の縞模様で、前方に小さなリボンが縫い付けてあるタイプだ。 「まぁ……そうだな。ミオが穿いているショーツの方がかわいいと思うよ」 「うんうん」  ミオがニコニコしながら頷いた。  ブリーフには前開きがあるから、かわいさよりも機能性を重視した作りなのだとは思うが、なるほど、見てくれは確かにショーツには劣る。  それが近年台頭してきたボクサーブリーフであったとしても、かわいさという面では丸っきり勝負にならないだろう。 「だから今は、男の子の間でもショーツが流行ってるんだよ。みんなが穿いてるのはボクのみたいにリボンはついてないけど、白色だけじゃないショーツもあるし、絵が描いてあったりして、見てて楽しいよ」 「そうだったのか……」  俺が小学生の頃は、自分も周りも白のブリーフ一色で、たまに奴がトランクスを穿いたりしていたものだが、これも時代の流れというものか。  今時の男の子って、ミオ程ではないけど、比較的中性的な子が増えてきたと聞くし、俗に言う〝男の娘〟が市民権を得てきているのも、性別の多様化が認められつつあるのだろう。  それじゃあショタっ娘のミオが下着姿を見られても、特段おかしいとは思われないわけだな。  さっきこの子が施設にいた時に言われた「違う下着穿いてる」という言葉も、他の子が穿く〝男女兼用〟ショーツと比べて、単純にリボンがついているか否か、という程度の指摘の意味合いだったのかも知れない。  はぁ。何だか心配し過ぎてドッと疲れたが、とにかくショーツの件については、肩の荷が下りたような気がする。  残る気がかりはドッジボールの件だが、こっちの方はどんなアドバイスをすればいいだろうか。  というか何とも言いようがないよなぁ。  そもそも運動が苦手なミオの事、逃げ回っていてもいつかは当たるだろうし、初見でうまくキャッチしろと言うのも無茶な話だ。  運動神経がよかった当時の俺だって、当たる時は当たってたんだから。  ケガをしないように外野に行ってなさい、なんて言うのは里親として失格だし、何より教育方針として正しくない。  俺は(あご)に手を当ててしばらく考えた後、ミオにこう伝えることにした。

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