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8.初めての体育(6)

「ミオ」 「なぁに? お兄ちゃん」 「明日のドッジボールの事なんだけどさ」 「うんうん」 「すぐには無理かも知れないけど、できるだけ楽しんでおいでよ」 「え。楽しむ……?」 「そう。さっきはボールのぶつけ合いって言ったけど、そのぶつけ合いをかいくぐって生き残るのは、結構スリルがあって楽しいよ」 「スリル?」 「後はサバイバル感かな」 「んー。難しい言葉ばっかり」  そう言って、ミオは俺の腕に顔をうずめる。 「はは、ごめんごめん。そうだなぁ、クラスメートのみんなとお遊戯(ゆうぎ)できるいい機会だと思って、めいっぱい体を動かしてくると楽しいんじゃないかな」 「お遊戯かぁ……」 「そうそう。みんな一緒に同じスポーツでお遊戯するのが体育だと思ってさ。成績の事なんて考えなくてもいいから、楽しく遊んでおいでよ」 「うん。分かった」  ミオが俺の腕の中で頷いた。 「ボク、いつまで内野に残れるか頑張ってみるね」 「ん。ケガだけは気をつけてな」  ――そして翌日の夜。  仕事を終えて帰宅した俺に、ミオは初めてドッジボールを遊んだ際の出来事を楽しそうに話してくれた。  その話によると、ミオは最後まで内野のメンバーとして生き残り、自チームも勝利を収めたとのことだった。  どうしてミオが最後まで生き残れたのかというと、同じチームの男の子や女の子までもがこぞって盾となり、ミオの身代わりになってくれた結果なのだそうだ。  何だろう、想像しただけで不思議な光景だ。  ミオが転入生だから、というだけではここまで優遇してはくれないよな。  もしかすると、ミオは天性の〝姫属性〟持ちなんじゃないだろうか。  チームメイトのみんなが身を(てい)して守ってあげたくなる程の存在。そんな〝姫属性〟の持ち主は男の子だけど。  とにかく、うちの姫にケガも無く、ドッジボールを楽しんできてくれたようで俺はホッとした。  これをきっかけに、体育と運動の苦手意識を少しでも克服してくれれば、もう何も言うことはない。  成績なんて二の次で充分。  今はひたすら、学校の授業を楽しんでくれればそれでいいと思うのだった。  ちなみに今日届いたばかりのミオの体操服だが、話の成り行きで、実際に着てみてお披露目してくれる事になった。  俺が仕事中は学校へ様子を見に行けないし、どういうデザインの服なのかは興味があったので、いい機会だと思って見せてもらうことにしたのである。 「どうかなぁ。おかしくなーい?」  着替え終わったミオが、両手を後ろに回し、ちょっと自信無さげに聞いてきた。  シャツは半袖で、首回りと袖に紺色のラインが入っている。まぁこれはオーソドックスなスタイルのシャツだな、という感想だ。  ズボンの色もシャツのラインに合わせた紺色で、ミオがいつも穿いている私服のショートパンツよりは若干丈が長い。  近年は女の子もブルマではなくズボンを穿くようになったため、体操服は上下共に男女兼用でも違和感を抱かせない、ユニセックスなデザインになっている。 「いいじゃん。似合ってると思うよ」 「似合ってる?」 「うん。すごくかわいい」 「体操服がかわいいって変だよー」  ミオが背中を向けて恥ずかしがった。 「そ、そんな事ないって。ミオは何を着てもかわいいよ」 「ほんと? ……えへへ、嬉しいな」  うーん、(ぎょ)し易い。もっとも、おだてるつもりでは無く、ほんとに思った事を口にしただけなんだが。  何だかこうしていると、歳の離れた恋人にコスプレしてもらっているように見えなくもないが、これは里親としての大事な役目だから。  と、自分に言い聞かせつつ、キュートなミオの体操服姿をじっくり眺めては、一人でほっこりとする俺なのであった。

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