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13.憧れのウサちゃんパーク(7)

 しばらく柵の中で子供たちに混じり、ウサギをなでなでしていると、部屋のスピーカーからアナウンスが流れてきた。 「十一時十五分から、ウサちゃんへの〝エサやり体験〟を開催します。参加ご希望の方は、施設中央のウサちゃん広場へお越しください」  この施設はウサギと触れ合えるだけでなく、エサをあげることもできるのか。まさに至れり尽くせりだな。 「ミオ、エサやりだって。行ってみよっか?」 「うん。ウサちゃんにエサあげたーい」  ちょっと名残り惜しいが、俺たちは触れ合っていたウサギたちに別れを告げ、施設の真ん中にあるウサちゃん広場へと向かった。  ふれあい広場とウサちゃん広場で何が違うんだろうと思ったが、ネーミングはともかくとして、おそらく飼っている品種と飼育方法などが異なるのだろう。  園内マップに従い、少し狭い通路を抜けると、そこでは、天井ごとフェンスで囲まれた広いスペースで、たくさんのウサギが元気よく跳ね回っていた。  これはすごいな、ざっと見た感じでも五十羽はいそうだ。  フェンスには、〝ウサちゃん広場〟という文字に加え、エサを食べるウサギの絵が描かれた看板が掛けられている。  どうやらここが、エサやり体験を行える場所なのだろう。 「すごい! ウサちゃんがいっぱいピョンピョンしてるー」  ミオが目をキラキラさせながら、フェンス越しのウサギを眺めている。  この広場のイベントであるエサやり体験は、主食を与えるのではなく、あくまでとして、生野菜をあげる事にしているらしい。  ほそーく切ったニンジンのスティック束が百円、細かくちぎったキャベツの葉も百円。  ものすごく良心的な値段設定だけど、もっとたくさんあげたい人には、三百円で大容量の生野菜が入ったカップを売ってもらえるようだ。  動物にエサをあげるのは、ペットを飼えない世帯の人たちには貴重な経験だ。  この機会を大いに楽しんでもらいたいので、ミオには大容量カップを買ってあげた。 「ありがとうお兄ちゃん。行ってくるね」 「うん。指を噛まれないように気をつけてな」 「はーい。ウサちゃん、お野菜だよー」  ミオがかがみ込んでニンジンスティックをフリフリすると、一気に十羽ほどのウサギが近づいてきた。 「わっ。待ってよ、そんなにたくさんあげられないよー!」  ウサギたちはミオの太ももに前足を乗せ、顔を突き出しておねだりしてくる。  そのうちの一羽が、手に持っていたニンジンをサクサクとかじりだした。  初めてのエサやり体験、早くも制御不能だ。 「お兄ちゃん、助けてぇー」 「ふふっ。仕方ないなぁ」  俺はフェンスの外から微笑ましく見守っていたが、ウサギの大群に取り囲まれて慌てるミオを救出するべく、生野菜カップを買って広場に入った。

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