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14.二人の歯科検診(4)

「すみません。検診の予約をしていた柚月(ゆづき)と申しますが」 「はい、承っております。では保健証をお預かりしますね。それから、こちらの問診票にご記入をお願いします」  今日はミオの歯科検診に来ただけなのだが、初めての来院で、かつ、今後お世話になるかも知れないので、念の為に診察券を作ってもらう事になっている。  そのための問診票なのだ。  ところで、なぜ問診票とペンを渡されたんだろう。  ひょっとして予約の電話をした時、受付の人が勘違いして、俺の分まで予約を取ってくれていたのか?  じゃないと辻褄が合わないよな。  まいったなぁ、ミオの付き添いでここへ来ただけなのに、俺まで検診してもらう事になっちゃったよ。  今さらキャンセルすると歯医者さんにも迷惑がかかるだろうし、仕方ないか。  俺とミオは待合室に並んで座り、問診票の質問に回答する事にした。  えーと、最初の質問は「どうされましたか?」だって?  俺はどうもしてないんだよ、ただの付き添いなんだから。  まぁいいや、検診で予約取られちゃったんだから、そのまま「検診に来ました」と書いておこう。  ここへの来院歴は二人とも無し、これまでに患った大病なども幸運なことに無し。つまり、既往歴(きおうれき)はゼロだということ。  血圧は測定していないので、適当に〝問題無し〟としておく。 「ねぇお兄ちゃん。これ、何て読むの?」 「ん?」  ミオが、問診票の質問欄にある漢字のよみがなを尋ねてきた。  ペンで指し示した場所には〝あなたは現在妊娠中ですか?〟と書かれている。 「えっと……にんしん、だね」 「ニンシン?」 「うん。にんしん」 「ニンシンってどういう意味?」  うぉい、それをここで聞くのか!  ミオはまだ性教育を受けていないから仕方ないとはいえ、他の人もいる待合室で、そのフレーズを連呼するのはさすがにまずい。 「まぁその、何だ。それは女の人に聞く項目だから、ミオは〝いいえ〟の方にチェック入れとけばいいよ」 「女の人はニンシン中になるの?」  妊娠の何がこの子を惹きつけるのか分からないが、さらに質問をぶつけてくる。 「そうだよ。でもミオは男の子だから、いいえって答えておこうね」 「男の子はニンシンしないんだ?」  したら大問題だよ……。  受付のお姉さんたちが俺たちのやり取りに気付いたのか、こっちを見て、クスクスと笑っている。  さすがに小っ恥ずかしくなってきたので、俺は周囲に聞こえないよう耳打ちした。 「妊娠のお話は家でしてあげるから、今はその紙の質問に答えちゃってよ」 「うん。約束だよー」  ようやく納得してくれたのか、ミオは他の質問にチェックをつけ始めた。  いや、納得というか、これはただ問題を先送りにしただけだな。  何しろ検診が終わって家に帰ったら、改めて妊娠について説明しなきゃならなくなったのだから。

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