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14.二人の歯科検診(5)
その後も質問の意味を聞かれてところどころ詰まったりはしたが、何とか二人分の記入を終え、問診票を提出できた。
あとは、歯科医による検診を待つだけだ。
待合室に貼られている案内などを読んで察するに、このクリニックは、新規開業してまだ間もないようである。
にもかかわらず、診察を待つ患者さんの数はかなり多い。
今日は午後五時に検診を受ける、という予約を取ったのだが、きっかり五時に自分たちの番が来るという保証は無いと思われる。
なぜなら現在、先客、という言い方は適切ではないが、とにかく先に来ていた患者さんへの処置が長引く場合があるからだ。
さらに、予約をせずに来院した人がいて、俺たちよりも先に診察を受けると、その分の時間が丸々待ち時間として加算される。
なので完全予約制ではない病院では、診察を受けられる時間が相当ずれ込む事を覚悟しておく必要がある。
という事情があるので、俺たちは各々の順番が回ってくるまで、待合室に置かれている本を読み、暇をつぶすことにした。
ミオが本棚から持ってきたのは、一冊のマンガ本だ。
その本は、現在放送中である人気アニメのカットをそのまま本に載せてコマ割りし、フキダシ付きで読ませるという手法を取っている。
一般的に〝アニメコミックス〟と呼ばれている媒体だ。
ミオに特段好きな作品は無いというか、子供向けのものなら何でも興味があるようなので、女の子向けのアニメも普通に見ている。
で、さっきミオが持ってきたのは、そんな女の子向けのアニメコミックスだった。
ミオ曰く、この作品は一人の女の子が、お菓子の国から来た妖精に助けを請われ、お菓子でできたコスチュームを身に纏 い、悪役と戦うのだという。
その悪役はお菓子が嫌いなのか?
世界観がよく分からないが、ミオは楽しそうに読んでいるから、少しは検診への不安もまぎれそうだな。
「柚月さん、柚月義弘 さん。お待たせいたしましたー」
カルテを持った歯科助手さんが、俺の名前を呼ぶ。
おいおい、よりによって俺からなのか。今日はミオの検診のためにここへ来たというのに。
「ミオ、ごめんな。先に行ってくるよ」
「うん。早く戻ってきてね、お兄ちゃん」
ミオは読んでいた本を閉じ、別れを惜しむかのように俺の手を握った。
そうだ、俺はこの子の付き添いのために、会社を早退してまでここへ来たのだ。
俺の検診なんかに時間をかけている暇はない、さっさと終わらせなければ。
ミオとしばしの別れになった俺は歯科助手さんに案内され、個室型の診療室に通される。
そこで〝ユニット〟と呼ばれる椅子に座り、後ろからエプロンをかけられた。
これはおそらく、治療中、服に水しぶきなどが飛ばないための処置だと思われるが、という事は俺は何かされる前提なのか?
何でこうなっちまったんだ、予約を取る時、俺の電話での伝え方が悪かったのかなぁ。
目の前にあるモニターに映っているテレビ番組を見ながらしばらく待っていると、ここの院長と思われる先生がやって来た。
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