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14.二人の歯科検診(7)
「そうなんだー。ボクも、後でそれやられるのかなぁ」
「うーん。それは歯の状態次第だな。何も問題ないなら、きっとすぐに帰してくれるよ」
ああいうのは、俺みたいに、何年も検診を受けてこなかった人がガリガリやられるんだろうからな。
「お待たせしました。唐島未央 さーん」
「お。ミオ、呼ばれたぞ」
力なく返事をするミオの表情からは、みるみる明るさが消えていく。
「ねぇお兄ちゃん。ボク、お願いがあるの」
「ん? 何だい?」
「あのね……」
――数分後。
ミオは診療室のユニットに座り、検診を待っている。
その診療室の傍らでは、特別に椅子を用意してもらい、俺が保護者として検診を見守る事になった。
一人っきりで検診を受けるのはやっぱり不安だから、大好きなお兄ちゃんにそばにいてほしい、と懇願されたのだ。
そこまで言われて、断るようでは男がすたる。
なので俺は歯科助手さんに頼み、邪魔にならない程度の距離を取ることを条件に、検診を見守らせてもらう事にしたのだった。
「おー。真っ白で綺麗な歯だねぇ」
検診を始めた先生は開口一番、ミオの歯の色を絶賛した。
こうして褒める事から入るのは、子供であるミオに、検診に対する恐怖感を抱かせないよう配慮をしているのだろう。
「それじゃ、お口の中を見ていくからねー」
先生はそう言うと、小さな鏡と歯科用探針を使い、先程の俺のように虫歯や歯石が無いかをチェックしだした。
俺が子供の頃に学校で検診を受けた時は、歯垢の話はされたものの、歯石というフレーズは出てこなかった。
〝予防歯科〟という言葉を聞いたのも、俺が大人になってからのような気がする。
そういう意味では、この国における、近年の歯に関する衛生意識は高まってきていると考えていいだろう。
だからこうして定期的に検診を受け、悪いところがさらに悪くなる前に処置してもらうのは、極めて適切な判断だと思う。
適切だとは思うのだが、探針でチクチクやられる度に、ミオの体がピクリと反応するのは、やっぱり痛そうで、かわいそうな気もするのである。
ごめんなミオ、もうちょっとだけ耐えてくれ。
これが終わったら、検診を頑張ったご褒美に、おいしいケーキでも食べような。
いや待てよ、虫歯が無いかどうかの検診を受けに来たのに、その後さっそく甘いものを食べさせるのは、歯にとってよろしくないだろうか。
まだ結果が出ていないのに、後先を考えてる場合じゃないな。全てはミオの歯の状態が分かってからだ。
「はい。お疲れさま。終わったよ」
先生はユニットのリクライニングを起こし、ミオに口をゆすがせた。
「もう……降りてもいいですか?」
ミオがおずおずと尋ねる。
「うん、いいよ。よく頑張ったね」
先生に許可をもらったミオはユニットから降りると、真っ先に俺の方へと駆け寄り、勢いよく抱きついてきた。
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