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14.二人の歯科検診(8)
「うわっとと」
背もたれのない椅子に座っていた俺は一瞬よろけたが、しっかりとミオの体を抱き止めた。
「お兄ちゃん、怖かったよー」
「うんうん。大丈夫、もう大丈夫だから」
そう言って、俺はミオの頭を何度も撫でる。
十歳って、まだまだ子供だもんなぁ。怖いものは怖いよな。
それに、俺が歯石取りをしてもらった時の、あの機械音を聞いてからの検診だし、自分も何をされるか不安で不安で仕方なかったはずだ。
だから、先生にユニットを降りてもいいと言われた時、一刻も早く安全なところに行きたいという気持ちが爆発して、一番に俺のところへ来たのだろう。
ちょっと大げさかも知れないけど、今この場で、自分の事を守ってくれる存在は俺だけなのだから。
「お子さんは虫歯もなく、綺麗な状態でしたね。しっかりブラッシングされていると思います。歯並びもいいので、噛み合わせの方も問題ないでしょう」
先生はマスクを着けたまま、ミオの歯について説明する。もうこの際、俺が父親だと思われている事には構っていられない。
「ただ……」
えっ? 「ただ」って何だよ。もしかして何か問題があるのか?
「左右の奥歯に、まだ生え変わりをしていない乳歯が三本ありましたね。しかも、まだぐらつきも小さく、しっかりしています」
ミオの年齢で乳歯が三本残っているって、同年齢の子供としては平均的なのかな?
「もしもこの状態のまま永久歯が生えてきた場合は、歯並びの事もありますので、一度来院していただいて乳歯の状態を見せてください」
「乳歯の状態、ですか?」
「そうです。その時に、乳歯のぐらつきが大きいようであれば、抜いていく方で検討しましょう」
「分かりました。その時はまたお世話になります」
「それと、乳歯が抜けた後、なかなか永久歯が生えてこない時も、歯ぐきの中に永久歯があるか無いかのチェックをしたいので、ぜひご相談に来てください」
「永久歯が……無い事があるんですか?」
「はい。先天的なもので生えてこない事があります。あるいは、永久歯が骨に埋まってしまっている場合。これを〝萌出障害 〟と言うのですが」
先生は専門用語を交えつつも、一般人である俺にも分かりやすいよう、歯の模型を使って丁寧に解説してくれる。
「萌出障害にはさまざまな原因が考えられますので、定期的に検診に来ていただいて、状態を見て治療の検討をしていく方向でいきましょう」
先生が言うには、永久歯が生えてこない理由として、単純に個人差で生えるのが遅い、〝萌出遅延 〟ならば心配は無いらしい。
だが〝萌出障害〟の場合だと、ミオの口の中に残る乳歯が、永久歯に影響を与えるおそれがあるというのだ。
もしそうなった場合は、その永久歯のケアを、先生と俺たちとの相談によって、治療の方針を決めようという事になったのである。
こうして話を聞くと、歯の一本を取ってもかなり奥が深いんだなぁと感じた。
特にまだ乳歯が残っているミオにとって、定期的に検診を受けさせることは、歯と噛み合わせの健康を保つために欠かせない事なんだな。
そういう大切な話を聞けただけでも、今日は何だか、ものすごく賢くなったような気がする。
俺とミオは先生に深く頭を下げ、歯科医院を後にした。
次は三ヶ月後に検診の案内ハガキを送ってくれるそうなので、また時間に折り合いをつけて、二人で行くことにしよう。
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