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14.二人の歯科検診(9)

「ミオ、よかったな。ガリガリやられなくて」 「うん。口の中を見られてる時はすごく怖かったけど、お兄ちゃんが側にいてくれて嬉しかったよ」  と言うとミオは俺の前に立ち、その身をくるりと(ひるがえ)して笑顔を見せてくれた。  よかった、もう元気を取り戻したみたいだ。 「じゃあ、これから商店街に寄って、お買い物して帰ろっか」 「晩ご飯のおかずを買うの?」 「それもあるけど、歯の隙間を綺麗にするグッズも買っておこうと思うんだ」 「グッズ?」 「そう。また歯医者さんでガリガリやられないために、家で出来る予防をしておかないとね。そのためのグッズなんだよ」 「ふーん。それってボクも使っていいの?」 「もちろんだよ。俺の分とミオの分を一つずつ買うから、歯磨きの後に使って、これからも歯を綺麗にしておこうね」 「はーい」  ミオが右手を上げ、元気よく応えた。  ――とっぷりと日が暮れ、街灯と看板のネオンが輝き始めるころ。  何とか大事も無く検診を終えた俺たちは、いつも通っている、駅近くの商店街へと立ち寄った。  そこで今日食べる晩ご飯のおかずと、歯科助手さんに勧められた、手巻き版糸ようじであるデンタルフロスを買うのだ。  フロスの使い方は歯石取りをした時に教えてもらったが、ミオはまだフロスそのものを知らない。  なので、家に帰って晩ご飯を食べた後、俺は歯科衛生士さんに叩き込まれた歯磨きの仕方と、フロスによる歯間のクリーニングを実演してみせた。  その実演を踏まえて、さっそくミオにもやらせてみたのだが、やっぱり最初は不慣れなせいか、うまく扱えなかった。  まぁそれが普通だよな、俺が見せたお手本だって、受け売りでやってるだけの付け焼き刃だし、完璧じゃあないんだから。  こういうのは日々の繰り返しによって、そのうち体が覚えていくだろう。  だから焦る必要はないと思う。  今までは歯磨きと歯間ブラシだけのケアだったけど、このフロスも加わって、少しでも長く歯の健康を維持できるといいな。  特に俺。あんなにしこたまガリガリやられるのは、もうたくさんだよ。 「ねぇお兄ちゃん」 「ん、何だい?」 「歯医者さんにいた時に聞いた、お話の続きをしてもいい?」 「うん。いいよ」  はて、何の話だったっけな。  今日はいろんな事がありすぎて、歯科医院でミオに何を話したのか、記憶がおぼろげだ。 「ありがと。ボク、あれからずっと聞きたかったの」 「そんなに興味のある話したかな、俺」 「覚えてないの? ニンシンのお話だよー」 「いっ!?」 「お兄ちゃん、お家に帰ったら教えてくれるって約束したでしょ? だからニンシンの事、教えて欲しいの」  そうだった、妊娠の話だ!  急場しのぎでそういう約束をしたのはいいが、どう説明するのかまでは全く考えていなかった。  困った事になったな、よりによって、独身の俺が妊娠を語ろうだなんて……。

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