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16.夏とプールと日焼け止め(8)
そして明くる日。
今日は梅雨明け前にもかかわらず、真夏日に近いくらいの猛暑で、お天道さまもカンカン照りな一日だった。
こんな日でも、営業職の俺には外回りという大切な仕事がある。
朝の天気予報を見て、出勤前に日焼け止めを塗っておいたのは正解だったようだ。
ただ、何とか日に焼けるのは防げたものの、うだるような暑さには敵わず、帰宅するころにはもうヘトヘトになっていた。
そんな俺を、ミオはいつも通り、玄関まで迎えに来てくれる。
水泳の授業でほぼ全身を太陽にさらしていたであろうミオも、いつも通りの、真っ白で綺麗なツヤ肌のままだった。まさに日焼け止め様様だ。
「お兄ちゃん、お帰りなさい!」
「ただいまー。初めてのプールはどうだった?」
「あのね、いっぱい水遊びして、泳ぎ方も先生に教えてもらったの。すごく楽しかったよー」
「そっかぁ。じゃあ、少しは泳げたんだ?」
「んーん。今日はビート板を持って、バタ足のやり方を教わっただけだよ」
なるほど、まずは沈まないようにするための、水泳の初歩だな。
「だから、ちょっと泳いだだけで足がついちゃった」
「いいじゃん、最初はみんなそんなもんさ。今は泳ぐ事を楽しむ時だと思って、いっぱい遊んでおいで」
「うん。ありがと」
ミオはにっこり笑うと、俺の腕を愛おしそうに抱きしめ、そして頬を寄せた。
梅雨が明けておらず、まだ海開きもしていない今の時期は、水遊びと水泳が楽しめるのはプールの授業だけだ。
その学校のプールも、夏休みに突入すれば水を抜き、来シーズンまで閉鎖してしまうらしい。
夏休みに利用できないのは勿体無い話だが、衛生上や維持費など、いろいろな問題が重なり、やむを得ずそうするのだろう。
でも、せっかく泳ぎを覚え始めたミオに、もっと水と触れ合い、楽しんでもらえる機会を作ってあげたいなぁ。
と、そこで俺が目をつけたのが、夏恒例のレジャーである、砂浜での海水浴である。
近場のウォーターパークや公営プールは、シーズン真っ盛りになると例年多くの人でごった返すため、人混みが苦手な俺たちには向かないだろう。
大きな海水浴場ならプールとは開放感が違うし、念のために浮き輪を買ってあげれば、溺れる心配もない。
泳ぎに飽きたら砂遊びに興じたっていい。
まだ一度も砂浜に行ったことのないミオも、海で遊ぶ事には憧れを持っているようなので、きっと楽しい思い出作りができるはずだ。
だからこの夏は、ぜひ一度は海水浴場へ連れて行ってあげたいと思うのである。
あ。でもうちから一番近くの海水浴場は毎年ダダ混みするから、もし今年も海水浴客で溢 れていたら、思うように楽しめないおそれがあるのか。
いっその事、ほぼ貸し切り状態のプライベートビーチがあるホテルにでも泊まれればいいんだが、今からじゃどこも予約は取れなさそうだし。
失敗したなぁ。もっと早めに、夏のレジャーについてプランを練っておくおくべきだったよ。
――と諦めかけていたその数日後。
ある人物の〝もつれ話〟がきっかけで、俺たちのもとに、願ってもないチャンスが舞い込んでくる事になるのであった。
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