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18.初めての通知表(2)

「柚月はこれからまっすぐ帰るんか?」 「うん、そのつもりだよ。ミオが終業式で学校も休みになったから、さっそく通知表を見せてもらおうかと思ってね」 「通知表かぁ。オレがまだガキんちょだった時を思い出すな」 「佐藤は、小学校の時の成績はどうだったんだ?」 「すこぶるよかったで。体育はな」 「他は?」 「全くアカン。特に理科。あれは授業の内容がサッパリ頭に入って()なんだからな」 「理科が苦手って珍しいな。虫眼鏡を使って光の屈折で紙を燃やしたり、アルコールランプを使った実験とか、楽しかったじゃん」 「お前は燃焼系が好きなんかい。オレはそういう面倒なのより、〝人間の体のつくり〟みたいな分野には興味はあったわな」 「保健体育的な意味で?」 「アホな事言うなや、単純に人体の神秘に感動しただけやがな」 「ほんとかねぇー。お前の事だから、人体模型を見ながら、よからぬ想像してたんじゃないの?」 「あのなぁ、オレはマニアとちゃうねん。小学生の時分に、人体模型見て変な想像を膨らませる奴なんかおらへんやろ」  なんて他愛もない話をしばらくしていたら、いつの間にか、時刻は五時半にさしかかろうとしていた。 「あ、もうこんな時間だ。んじゃ俺はそろそろ帰るよ」 「あっと。ちょい待った、柚月」 「ん? どうした?」 「休み明けから一日挟んだら、有給休暇やろ? いろいろ準備できてんのか?」 「準備って?」 「そら、ミオちゃんとリゾートホテルで楽しく過ごすための準備やがな。まさか手ぶらで行こうってわけじゃないやろな」 「何か必要だっけ。渡船(とせん)の往復チケットはもうもらったし……」 「はぁー。お前はつくづく遊びに(うと)いやっちゃのう」  と、佐藤に大きなため息をつかれた。 「リゾートホテルには、いろんなアクティビティがあるんやで。遊びをガッツリと楽しむためには、それなりの準備は必要やろがよ」 「と言うと?」 「まずは服と水着や。特に服は、海水に濡れてもかめへんような、どうでもええ服を何着か用意しとかなアカン」  佐藤に指摘されて、俺は初めて自分用の水着を持っていない事に気が付いた。  ミオもミオで、あんなおしゃれなプライベートビーチで、地味な五分丈のスクール水着を穿かせるのもかわいそうだし、海専用の水着を買ったほうがいいのかも知れない。 「それから、この時期に釣りに行くなら太陽の照り返しが直接目に来るからな。サングラスとまでは言わんが、偏光グラスくらいは買うとき」 「なるほど、偏光グラスね」  俺は胸ポケットから手帳とペンを取り出し、佐藤がリストアップしてくれたグッズを、次々とメモしていく。 「――とまあ、準備に関してはそんなとこやな」 「ありがとう、佐藤。助かったよ」 「後は何して遊ぶのか、前もってミオちゃんと相談して決めとけばええやろ。パンフレットをよう見とくんやで」 「うん。そうする」 「とりあえず、オレから言えるのはそれくらいやな。せっかくで取れたリゾートホテルなんやで、しっかり楽しんできぃやー」 「ああ。ありがとな。お礼にうまそうなみやげを買ってくるから、期待しといてくれよ」 「おう、任せたで。ほなオレはネーチャン引っ掛けに行くから、また休み明けにな」  ウキウキした様子の佐藤と別れ、俺もミオの待つ我が家への帰途についた。  家に帰れば、ミオが一学期の通知表を見せてくれる。  通知表を読めば、あの子はどの教科が得意で、逆に苦手だったのは何なのかがひと目で分かるのだ。  個人的な興味はさておき、ミオの保護者である俺としては、ぜひ一度目を通しておきたいと思うのである。

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