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20.二人の名所めぐり(4)

「お兄ちゃん、綺麗にしたよー」 「よーし。それじゃ拭き拭きしたら、お参りに行こうか」 「うん。でもお兄ちゃん」 「ん? どうかした?」 「この神社って何の神様がいるの?」  という当たり前の質問をされて、俺は初めて、ここが一体誰をお(まつ)りしているのか分かっていない事に気が付いた。  単に神社と言っても、祀られているのは神話上の人物だけではなく、現人神(あらひとがみ)と呼ばれた実在上の人物の場合もあるのだ。  という事で、神社で配布されている冊子をもらって読んでみると、どうやらこの佐貴島神社では、主に〝縁結び〟を司る神様をお祀りしているらしい。  ……縁結びねぇ、俺に関係あるのかな。 「どうしたの? お兄ちゃん」  無言のまま冊子を読んでいると、ミオが不思議そうに俺の顔を見上げた。 「いやその。ここ、縁結びの神社みたいなんだよ」 「エンムスビってなーに?」 「えーと。簡単に言うとな、好きな人と結婚できますようにってお願いする事で、ご利益(りやく)があるかも知れないというか」 「そうなんだ!」  疑問が解け、なおかつ結婚と聞いたせいか、ミオの表情がパッと明るくなる。 「じゃあお参りしようよー。早くー」 「分かった分かった。でも、ミオは誰と縁結びするつもりなんだい?」 「え? お兄ちゃんとだよ?」  ミオがさも当然かのように答えた。 「俺と?」 「うん。歯医者さんに行った日、お兄ちゃん、ボクと結婚してくれるって約束したでしょ?」 「あはは。そ、そうだったかなぁ」  さすがと言うか、子供は記憶力がいい。  あの時は妊娠の話をした流れで、成り行きに任せて、お互いノリだけで約束したつもりだった。  というのはあくまで俺の解釈であり、当のミオは、今でも本気で俺と結婚したいと思っているようだ。 「お兄ちゃんと結婚できますようにー」 「ミオ、そんな大きな声で言わなくても……」 「えー? でも、そうしないと神様に聞こえないでしょ?」 「うーん、そうなのかなぁ」  という拝殿でのやり取りを見て、社務所に詰めている巫女さんたちがクスクスと笑っていた。  これまでは、神社でお参りする時は心の中でお願いしていたが、本当は、ミオみたいに声に出してみるのが正しいのかも知れない。  ただ、隣で堂々と「俺と結婚したい」ってお願いされると、嬉しい反面、照れくさくもある。  さて、俺は何をお願いしよう。  とりあえず、ここの本殿に祀られている神様は、縁結びの他にも〝禁厭(きんえん)〟というを受け付けているそうだ。  なので、女運のカケラも無いような俺は「ミオに悪い虫がつかないように」と、災難・厄除けのおまじないをかけてもらう事にした。  さて、神様へのお参りも済んだし、この神社ならではのグッズ、という呼び方は適切ではないが、とにかく授与してもらおう。  真っ先に目を引いたのが、神社なら定番と言ってもいい〝おみくじ〟で、この神社では普通のおみくじと、縁結びに関わる〝恋みくじ〟の二つがあるようだ。  俺は普通のものを、まだショタっ娘ながら結婚願望の強いミオは、迷いなく恋みくじを引き、各々開いてみた。

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