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22.初めてのディナーバイキング(1)
「お兄ちゃん、明日は曇りだって」
風呂から上がり、客室に戻った俺たちは、気になる宿泊二日目の天気をテレビでチェックした。
地元のテレビ局によるデータ放送では、県内はもちろん、このホテルがある離れ島、佐貴沖島 の天気も予報してくれる。
その予報では、先ほどミオが言ったように、明日は曇天模様の予報で、降水確率は三十パーセントとの事だった。
うーむ、微妙だ。三十もあったら、ヘタしたら雨に降られる心配があるぞ。
まぁ悪い方に考えても仕方ないか、残りの七十パーセントは降らないって言ってるんだから、明日はそっちに期待しよう。
「明日、泳げるかなぁ」
ミオも曇り空での海水浴には不安があるようで、持ってきた水着を拡げながら明日の心配をする。
「雨雲が来なけりゃ大丈夫だよ。カンカン照りになって暑くなるよりは、多少は雲があった方が涼しいかもね」
と、あえてポジティブに答えた。
俺はあまり霊的な事柄には詳しくないが、この国では、昔から〝言霊 〟という、言葉に宿る力が信じられている。
あんまりネガティブで悲観的な事ばかり言うと、その言霊によってよくない事が起きそうなので、こういう場合はできるだけプラスに考えるようにしているのである。
「ミオ、そろそろ晩ご飯食べに行こっか」
「うん。今日の晩ご飯は何かなー」
ミオにとっては人生初めてのバイキング形式だから、あのラインナップの豊富さを見たら、きっと驚くんだろうな。
俺たちは客室を出て施錠し、エレベーターに乗って地下一階のバイキング会場を目指した。
地階は高級レストランや回らない寿司屋、料亭などが並ぶレストラン街になっていて、バイキング会場もその一角の大広間にある。
現在時刻は八時十五分、ディナー終了まではあと一時間以上あるので、会場はまだまだ賑やかだ。
「うわぁー、食べ物がいっぱい並んでるー!」
「すごいなぁ、地元の名産品を使った料理もあるって聞いてたけど、こんなに品揃えが豊富だと、どれ食べていいのか分かんなくなるな」
と、俺まで驚いてしまった。
バイキングと言えば、いかに安い材料費でたくさん飯を食わせ、元が取れない程度に腹いっぱいにさせるか、という印象だが、ここの料理はまた一味違う。
そこでは佐貴沖島で取れたであろう海の幸や山の幸がふんだんに並び、さらには佐貴島牛 という、地元産の牛肉までもが食べ放題なのだそうだ。
いいのかなぁ、そんなに大盤振る舞いで。
採算取れてんのかな。
俺たちが会場の入口で、その豪勢かつ豊富なラインナップに見とれて立ち尽くしていると、ホテルの従業員さんが、すかさず声をかけてきた。
「お客様。バイキングのご利用ですか?」
「……はっ!? は、はい、そうです。えーと、これが食事券です」
「ありがとうございます。当ディナーは和洋中、全ての料理を揃えておりますので、どうぞごゆっくりお選びください」
従業員さんはにこやかに話すと、次にやって来た宿泊客の応対に回った。
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