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24.初めての海水浴(2)

「ミオ。顔を洗ったら、朝ご飯食べに行こうか」 「うん。ご飯食べるー」  このホテルの宿泊に関する予約の内容は、一泊二食付きで、朝食と夕食がバイキング形式になっている。  と言っても、朝食のバイキングはディナーほど豪華で重いものはまず用意していないので、白飯かパンのどちらかを取るかで、(おの)ずとおかずが決まる。  俺は久しぶりに白飯を選び、プレートには味噌汁や納豆、オグラのゴマ和え、卵焼きに鮭の切り身を乗せ、自分なりの和風朝定食を作った。  ミオはクロワッサンとスクランブルエッグ、そしてサラダにコーンポタージュスープという洋風の朝食だ。  その朝食に添える飲み物はもちろん、ミオが大好きなオレンジジュースである。  俺たちが朝ご飯を食べに来た時刻は八時前だったのだが、この時間帯がピークだったのか、バイキング会場は他の宿泊客たちでごった返していた。  何しろ千人以上が泊まれるホテルだからなぁ、いかに会場が広いとは言え、同じ時間帯にこんなにたくさんの人が訪れると、並んでいる料理もすぐに底をつく。  この人が密集する事によって立ちこめる熱気と、宿泊客による食事や会話の喧騒は、ホテルならではの独特なものだろう。  基本的に、あまり人混みは好きではないのだが、こういう光景や雰囲気は意外と楽しい。  いかにも旅行をしている感がありありと出ているものに触れ、その空気を感じていると、自然とワクワクしてくるのである。 「ごちそうさまでしたー。いっぱい食べちゃった」 「それだけおいしかったんだな」 「うん。でもスクランブルエッグは、お兄ちゃんが作ってくれたのが一番好きだよ」  ミオは無邪気な笑顔でそう答えた。  この子はほんとに優しいなぁ。  俺みたいな不器用な男が、毎朝必死こいて作るスクランブルエッグを、腕のある調理人さんが作ったやつよりも好きだと言ってくれるんだから。 「ありがとうな、ミオ。お兄ちゃん嬉しいよ」  俺は、オレンジジュースをストローでちゅーちゅーしているミオの頭を優しく撫でた。 「ねぇお兄ちゃん。またお家に帰っても、スクランブルエッグ作ってくれる?」 「ああ、もちろんだよ。ミオが飽きたって言うまで、毎日作ってあげる」 「ありがと。でもボクはスクランブルエッグは大好きだから、きっと飽きないよ!」 「ははは、そっか。じゃあ卵をたくさん買っておかなきゃな」  なんて話をしながらまったりとした朝食の時間を過ごし、特におかわりはせずにバイキング会場を出た。  さて、これから一旦客室に戻るわけだが、今後のスケジュールを変更するか否かの検討を行う必要がある。  当初は、一旦チェックアウトする午前十一時まで部屋に滞在し、それから外出。  外出したら、ホテルの施設を見て回ったり、先に昼食を取ったりして、それから泳ぎに行くつもりでいた。  が、昼食をガッツリ食べた後、すぐに泳いだりするのは体によくないとも聞くので、行動の順序を変えようと思ったのだ。  客室に戻り、ミオにもその事を説明すると、ミオはこんな提案をしてきた。

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