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24.初めての海水浴(8)
「いやぁ、優しいなんて大げさなもんじゃないよ。これくらい普通だって」
「そんな事ないです! 僕、同じ男として、お兄さんにはすごく憧れちゃいます」
「そう言ってもらえると嬉し……えっ? 男?」
「はい! 男の子です。僕、如月 レニィっていいます」
「そ、そっか。レニィ君、男の子だったんだね。すごくかわいいから、てっきり女の子かと思っちゃったよ」
「そんな、恥ずかしいです……」
と言いつつも、本人はかわいいと言われた事がまんざらでもないのか、ボールを抱っこしながらもじもじとしている。
まさかとは思いつつ、心のどこかでそんな気はしていたが、この子もミオと同じ〝ショタっ娘〟だったわけだ。
道理で男女の判別がつかないわけだよ。
「あの。よかったら、お兄さんのお名前も教えてもらってもいいですか?」
「うん、いいよ。俺は柚月義弘 っていうんだ。よろしくね」
「はい! よろしくお願いします!」
「レニィ、早くボール持ってきてよー」
陰になったビーチパラソルの向こうから、レニィ君を呼ぶ少年の声がする。
たぶんこの子は、親兄弟と一緒に泊まりに来たんだろうな。
「あ! そろそろ行かなくちゃ。柚月さん、またお会いできますよね?」
「え? そうだなぁ、明日のチェックアウトまではホテルにいるから、それまでには会えるかもね」
「また、お話できるのを楽しみにしてますね。それじゃ僕はこれで……ほんとにありがとうございました!」
レニィ君は深々とお辞儀をすると、ボールを大事そうに抱え、彼方へと走り去っていった。
かわいくて礼儀正しい子だったなぁ、名前から察するに、あの子はハーフなのかな?
あるいはキラキラネームだったりして。
また話ができる事を楽しみにしているって言ってたけど、もしかして、俺なんかに一目惚れしちゃったのだろうか?
いや、まさかな。
とにかく、ボールの一件もこれで片付いたことだし、そろそろ砂遊びの方に戻ろう。
かと思って後ろへ向き直したら、さっきのやり取りを遠目で見ていたミオの表情が一変していた。
「……むー」
「ミ、ミオ? どうしたんだい?」
「お兄ちゃん、今の子と仲良くしてたー」
「いっ!?」
ヤバい、このジト目は俺を疑っている時の目つきだ!
ひょっとして、さっきのレニィ君とのやり取りを見て、ミオがやきもちを焼いてしまったのか?
だとしたら、変にこじらせないうちに、誤解をといておかなくてはならない。
「ミオ、違うんだよ。今のはちょっと名前を聞かれただけで……」
「浮気してたんじゃないの?」
「う、浮気って。そんなわけないじゃん」
「ほんとかなぁ。お兄ちゃん優しいから、他の子にも好かれそうだもんね」
俺を疑っているのか褒めているのか、どっちつかずな発言だが、とにかくミオにとっては、あの子と会話していたのが浮気だと映ったらしい。
俺に一切やましい事は無いというのに、何だか針のむしろに座らされているような気分だ。
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