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26.夏のマリンアクティビティ(1)

 ペダルボートというと、大きな池や湖でカップルが乗って遊ぶ、白鳥の姿を模したものなんかが有名だが、俺たちが今漕いでいるのは、四人まで乗れる屋根なしのものだ。  俺は右側の座席に、ミオはその隣に座り、ペダルに両足を乗せて漕いでいく。  佐貴沖島(さきのおきしま)の海は波が穏やかなため抵抗も少なく、こういう簡素なボートで、わずかな力でも推進が可能になるのである。  ただし、幼い子供だけでは推進力や時間の管理に不安があるので、少なくとも、このプライベートビーチでは、大人一人の同乗を求められる。  肝心なボートの操舵は、中央に取り付けてあるハンドルで行うのだが、少し触った感じだと、あまり力を使わなくても回せるようだ。  車のパワーステアリングくらい軽いので、これならミオに操縦を任せてみても問題ないだろう。 「不思議なもんだなぁ、こうしてペダルを漕ぐだけで前に進むってのも」 「そだね。でも、ボクあんまり力を入れてないよ」 「ほんとに? じゃあ、俺の漕ぐ力に合わせてミオの足が回ってる感じ?」 「うん」  ますますどういう原理なのか分からんな。底面にスクリューでも付いていて、ペダルを漕ぐ力によって、そのスクリューが回転するとか?  まぁいいか、とにかくペダルを踏みさえすれば前には進むんだから、今は風景を楽しむ事に専念しよう。 「ねぇお兄ちゃん、あれなぁに?」 「んー?」  ミオが指差した先には、ペダルボート区画のはるか向こうで、水上バイクに牽引されながら、宙に浮いている人の姿があった。 「何だろ、あれ。足から水が噴射する力で飛んでるのか?」 「すごく高いとこまで飛んでるねー」 「ちょっとパンフレットを見て、あれの名前を調べてみるか。ミオはハンドルの方を頼むよ」 「はーい。ぐるぐるするよー」  俺はペダルを漕ぎつつバッグからパンフレットを取り出し、ミオは、二人が乗っている座席の間にあるハンドルを回して、ゆるやかに進路を変える。  ペダルボートで遊覧できる区画は限られていて、砂浜からおよそ百メートルくらいの沖合いには、無数のブイの間に張られた背の高い網で仕切りがしてある。  その網のおかげで、子供のミオでも、どのタイミングで方向転換するべきかは分かりやすくなっているのだ。  なのでいい機会だと思って、しばらくはミオに船の操舵を任せる事にする。 「んーとな。あれはフライボードって言うらしいよ」 「フライボード?」 「そう。あそこに水上バイクがあるだろ? あの水上バイクからたくさん水を流して、その水圧で空を飛べるらしいね」 「へぇー。でもあんなに高く飛んで、怖くならないのかなぁ」 「俺もそれが心配なんだよな。あと、水圧が止まった後、うまく着地できるのかとかね」 「海にバシャーンっていっちゃうかも知れないってこと?」 「うん。その、もしもの時のためのヘルメットとライフジャケット着用なんだろうけど」

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