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26.夏のマリンアクティビティ(3)

 でも、梅雨明けする前なんかは、そういう憂き目に遭っている宿泊客もいたんじゃないだろうか。  何しろ今年の梅雨は、晴れ間が続く日なんてほとんど無かったし、雨量も尋常ではなかったから。  そういう時に泊まりに来た客は、一体このホテルで、何をして過ごしていたんだろうか。  ホテル内にはラウンジや温泉、ゲームコーナーなどがある事だけは把握しているが、それ以外に、客の興味を惹きつける何かがあるのかどうかが気になる。  ただご飯がおいしいだけじゃあ、わざわざ船に乗ってここまで泊まりに来ないだろうし。  アクティビティを楽しみ尽くしてホテルに戻ったら、晩ご飯までの間に、改めて館内巡りをしてみようかな。 「ねぇねぇお兄ちゃん」 「ん?」 「この、ウェディングチャーチってなぁに?」  ボートの上で波に揺られながら、ホテルの館内マップを開いて読んでいたミオが、難しい横文字の施設について尋ねてくる。 「ウェディングチャーチってのは、要するに教会だよ。チャーチが教会って意味なの」 「ふーん。じゃあ、ウェディングは?」 「えっ?」  てっきり、ミオはチャーチの意味を聞いてきたのかと思ったが、まさかウェディングまで知らなかったとは。 「ウェディングは、その……結婚式って意味なんだけど」 「んー? じゃあ教会で結婚式をするの?」  結婚というフレーズを出した事で、ミオがまた俺との結婚を意識するんじゃないかと思っていたが、どうやら教会で挙式を行う方に興味が逸れたようだ。 「そうだよ。昔は披露宴会場を借りて盛大にやってたんだけど、時代が変わってね。最近じゃあ、教会で式を挙げる人も増えてきたのさ」 「へぇー。でもホテルの中にも教会があるって不思議だね」 「まぁそうだな。その結婚式のために、このホテルに泊まる予約をするお客さんは、さすがにいないと思うけどね」 「なんでー?」 「だってここ、毎日が予約でいっぱいなんだぜ。結婚式場の予約はできても、式に参加する人たちが泊まる分の部屋なんて、とてもじゃないけど予約が取れないよ」 「ここ、そんなに人気なんだ」 「うん。特に夏場はね」 「お兄ちゃんはどうやって予約できたの?」  これは難しい質問だなぁ。予約を取れたわけを正直に答えると、結果的に、佐藤が女の子にフラれたのをバラしてしまう事になるわけだし。  そんな話をしても、誰も幸せになれない。  ここは佐藤のメンツにかけて、あえて真実は語らないでおこう。 「えーとな。仕事場に佐藤っていう仲間がいてね、その人が忙しくて行けなくなったから、代わりに俺が譲ってもらったんだよ」 「そうなんだ。佐藤さんかわいそうだね」  まぁ、ほんとの理由は佐藤の重い愛による自滅みたいなもんなんだけど、確かにかわいそうではあるな。 「佐藤には、俺からおみやげを渡して……あっ」 「え。どしたの?」 「そういや、佐藤と会社の人たちに配るおみやげ、何がいいか全然考えてなかった」 「昨日買ってた、ドレッシングじゃダメ?」 「あれは、家で使う分として買ったやつだから……数が足りないな」  島の繁華街に多数並んでいた、みやげ物屋の品々を見ていた時、ミオとの縁結びの話が頭に残っていて、佐藤のサの字も思い浮かばなかった。  一体俺は何をやっているんだろう、ちょっと浮かれすぎじゃないのか。  こうなったら仕方無い。二度手間にはなるが、グラスボート体験を終えたら、俺一人でもう一度繁華街に繰り出すしかないな。

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