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27.再会、そして(12)
「そっか。それじゃ俺たちは先に上がって、ラウンジでお茶してるから、レニィ君たちも後でおいでよ。そこで予定を決めよう」
そのお誘いを隣で聞いていたミオも、うんうんと頷いた。
「あ、じゃあ僕たちも上がります!」
「はは、そんなに慌てなくてもいいって。温泉にはさっき来たばっかりなんだろ?」
「そうなんですけど、でもぉ」
「俺たちの事なら気にしなくていいよ。おいしいジュースでも飲みながら、涼んで待ってるから、ゆっくり浸かっておいで」
「……分かりました。柚月さん、未央さん、ほんとにありがとうございます」
「レニィ君、また後でねぇー」
俺とミオは長らく浸かっていた露天風呂から上がり、レニィ君に手を振って一旦別れる。
そしていつも通り、脱衣所で体を拭き、髪を乾かし、伸びてきたヒゲを剃って身だしなみを整え、サッパリしたところでロビーラウンジへと向かった。
現在の時刻は夕方の六時半前で、まだまだ日没には早い。
さすがにこの時間のロビーラウンジはそんなに客は多くなく、今いる客層も、若い人よりは老夫婦が中心のようだ。
「ミオ、今日は何が飲みたい?」
「んーとね。この、バナナのスムージー? ってのを飲んでみたいな」
「いいね、おいしそうじゃん。んじゃ俺はアメリカンのアイスにするか」
「アメリカンってなーに?」
「アメリカンは、コーヒーの種類だよ。ちょっと苦味を抑えたコーヒーって言えば分かりやすいかな」
「そうなんだ。コーヒーにもいろんなのがあるんだねー」
「コーヒーにも相性があるからね。作っている場所が違うだけでも、味わいや香りが大きく変わってくるから、自分にピッタリ合う豆を見つけるまでの道のりは、結構長くなるかもな」
「そんなにたくさんあるの? じゃあ、ボクはバナナでいいなぁー」
「ははは、そっか。まぁ自分が飲みたいものを飲むのが一番だよね」
「うん!」
また一つの疑問が解け、納得のいったミオの顔に、まぶしいほどの笑みがこぼれる。
と、それはそれとして、この子には聞いておきたい事があるのだ。
「ミオ、ところでさ……」
「ん? なぁに、お兄ちゃん」
「レニィ君の事なんだけど。あの時、ミオはカラオケに誘おうって言っただろ?」
「うん、そだね」
「それが意外に見えたんだ。あの時のミオ、またやきもちを焼いているんじゃないのかなって思ったからさ」
「んー」
ミオは顎に人差し指を当てて、しばらく考え込むような様子を見せ、そしてこう答えた。
「最初はそう思ってたけど、あの子の話を聞いて、かわいそうなのが分かったでしょ?」
「ああ。親御さんがいつも家にいなくて、後はホテルでもかまってもらえなかったり、とかな」
「そ。だからレニィ君も、またお兄ちゃんみたいな優しい人に会えた時、甘えてみたくなったんだよ」
「俺に?」
「うん。気付いてなかった?」
「いや、もしかして惚れられたのかなぁとは思ってたけど、そういう事だったのか」
「好きにはなりかけてたけど、温泉で会った時には、お兄ちゃんがボクを『うちの子』って紹介したでしょ? レニィ君はあの時、お兄ちゃんの事をいいお父さんだと思って憧れたんだよ」
「な、なるほどぉ」
さすがは同じショタっ娘だ、自分と同じタイプの子の心理は手に取るように分かるもんなんだな。
「だから今日だけは特別に、お兄ちゃんに甘えさせてあげる事にしたの」
「そうだったのか……ミオ、優しいね」
「そんな事ないよー」
ミオは照れくさそうに謙遜するが、二人っきりになれる時間をあえて他の子にも分けてあげるのは、やっぱりこの子の優しさだと思う。
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