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29.初めてのカラオケ(10)
「ふぅ。お兄ちゃん、どうだった?」
マイクを置いたミオは、ちょっぴり不安げな顔で、選曲と自分の歌唱力についての感想を尋ねてきた。
「うん……すごく上手だったよ。ありがとう」
「え? どうして『ありがとう』なの?」
「んー。その理由 は話せば長くなるけど、簡単に言うと、俺にとっても大切な思い出の曲、だからかな」
「そうなんだ? じゃあ、お兄ちゃんも元気をもらえたんだね」
「ああ、ものすごくね。その大切な思い出を呼び起こしてくれた事と、上手な歌を聴かせてくれた事に感謝してるんだ。ありがとうな」
「えへへ、ちょっと恥ずかしいな」
ご褒美で頭をなでなでされたミオは、頬を紅くしながら照れ笑いしている。
俺たち二人の間で「感謝」なんて言葉を口にしたのはこれが初めてだから、ちょっと水くさくなっちゃったかな。
「それから、レニィ君とユニィ君も。ミオと一緒に歌って演奏してくれた事に、お礼を言わなきゃね」
「そんな。お礼だなんてもったいないです!」
「そ、そうそう! ぼくたちが勝手に参加しちゃっただけなんだから」
如月兄弟はそう答えると同時に、頭を下げようとする俺を慌てた様子で制し、両手をブンブンと振った。
「こちらこそ、柚月さんにお気を遣わせてすみません。何だか差し出がましくなっちゃって……」
「いやいや、いいんだよ。カラオケっていう遊びは、みんなで楽しんでこそだからね」
「そだね。ボクも、レニィ君と一緒に歌えて楽しかったよー」
俺たち二人は心から思った事を口にしたつもりなのだが、それでもレニィ君たちは恐縮しきりだった。
そういう謙虚さと初々しさもまた、この兄弟の魅力なのかも知れないな。
「さて。お次はレニィ君が歌ってくれるのかな?」
「レニィ君はまだだもんね」
「で、でも。僕はさっき歌っちゃったし、もう次の人でいいかなって」
「え? さっきのってサビのとこだけじゃん。レニィ君の歌いたい曲が決まったら、予約入れちゃってよ」
「いいんですか?」
「もちろんさ。時間はたくさんあるんだし、何よりカラオケに誘ったのは俺たちなんだからね。何も気にしなくていいんだよ」
「ありがとうございます。それじゃ、早く決めちゃいますね」
レニィ君は深々と頭を下げると、デンモクを手に取り、曲の検索を始めた。
この子もミオに負けないくらいの美声だったからなぁ、何を歌ってもサマになりそうだ。
「……決まりました。今から送信します!」
「お、早いね。何にしたのかな?」
「あのお、それが外国語の曲なんですけど」
「え。レニィ君って外国語話せるんだ?」
「はい。ママが、普段の生活でも英語を使っているので、パパに訳してもらっているうちに、自然と覚えちゃいました」
そういや、この双子ちゃんの母親は生粋のアメリカ人で、日本人の父親とのハーフなんだったな。
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