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29.初めてのカラオケ(12)

「ね、お兄ちゃん?」 「えっ!? な、何かな」 「お兄ちゃんはキスした事があるの?」  何てド直球で、かつ返答に困る質問なんだ。  した事が無いって答えると嘘になるし、正直にした、と答えると、今度はまたを焼かれそうだし。  というか、俺くらいの年齢の男がまだキスも未経験だったら、それはそれで奥手すぎるだろうな。  仕方ない、ここは正直に答えよう。  俺の事を全面的に信じてくれているミオに、嘘をついてその場をごまかすというセコい真似をするのは、まず里親としての資質に問題がある。 「あるよ。俺が幼稚園生の時にね」 「幼稚園生? それってボクより年下だった時のお話だよね?」 「うん。その時には恋愛って概念が無かったから、自分が好きな女の子とは、普通にキスしてたな」 「そうなんだ! お兄ちゃんってな子供だったんだねー」 「いやぁ、その。はははは」  キスした事があるか、という質問に対して、思わずファーストキスの時の話をしてしまったのだが、こんな答えでよかったのかな?  当のミオは、再びレニィ君の歌声に聴き入りだしたから、まぁ納得はしてくれたんだろうが。  ひょっとして、自分にもキスして欲しいって言われるかと思っていたから、少しドキドキしちゃったよ。  ……おっと、キスの話をしている間に、そろそろレニィ君の歌う曲も終わりが近くなってきたな。  ショタっ娘レニィ君の歌声も、女の子視点の曲にマッチしていて、すごくキュートで愛らしいから、これを生で聴いた世の男たちは、まず間違いなくハートを射抜かれる事だろう。  もし俺の隣にミオがいなかったら、たぶん俺もそうなる。 「あ。終わりました」  最後まで歌い切ったレニィ君が、時間節約のためか、デンモクを使って後奏をカットした。 「お見事! 英語の発音が完璧だったねぇ」 「レニィ君、すごくかわいかったよー」 「ありがとうございます! お二人に、そう言っていただけて嬉しいです」  この子たちは、カラオケに挑戦するのは今日が初めてだというのに、歌うのがうまいんだなぁ。  これが生まれ持った才能ってやつなのか。 「あのぉ。次、ぼくが歌ってもいいですか?」  先ほどまで、タンバリンを鳴らして場を盛り上げていたユニィ君が、俺の顔色を伺うように尋ねてくる。 「もちろん。歌いたい人からじゃんじゃん予約しちゃっていいよ」  歌う順番に関して自由にやらせるようにしたのは、こんなに慎ましやかな子たちの事だから、一人で何曲も続けて歌うという〝困ったちゃん〟な行動は取らないだろうと踏んだからである。 「分かりました! んじゃ今度は『妖怪ファイターDX』にしよっと」 「ユニィ、ほんとにアニメの歌が好きなんだね」 「お兄ちゃんはどうするの?」 「俺? そうだなぁ、またミオのリクエストに応えてあげようかな」 「ほんと!? じゃあ、次は一緒に歌お?」 「お、デュエットか。いいねえ」 「んー? それってどういう意味?」 「あ、えーとな。デュエットってのは――」  俺とショタっ娘三人によるカラオケ大会は、こんな感じの、常に賑やかで、和気あいあいとした雰囲気のまま進んでいった。  最初はどうなる事かと心配していたけど、ミオたちも心から楽しんでくれているみたいだったし、みんなの素敵な歌声も聴けたわけだし、ここへ連れて来てほんとに良かったと思う。  この子たちにとっても、カラオケという初体験の娯楽が、いつまでもいい思い出として心の中に残ってくれると嬉しいな。

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