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30.さらば、リゾートホテル(1)
「あぁー、歌った歌った!」
時刻は夜の十時半。
カラオケルームの利用時間いっぱいまで歌った俺たちは、受付にてマイクやデンモクなどの返却を終えてから、待合室で一休みする事にした。
楽しい時間の余韻 に浸りたいのもあるし、すぐに解散するのも名残 り惜しいような気がしたのだ。
その空気を察知してか、カラオケルームの従業員さんが気を回して、俺たちに冷たい麦茶をサービスしてくれた。
「あ、どうも。お気を遣わせちゃってすみません」
「いえいえ。この度のご利用、誠にありがとうございます」
くぅー、よく冷えてる。
一時間半歌いまくって喉もカラカラだったから、冷や冷やの麦茶がしみ渡ってうまい。
「ユニィってば、結局全部アニメソングを歌ってたよね」
「いいじゃん。アニメ大好きなんだもーん」
「ははは。まぁ自分の好きな曲を目一杯歌って、ストレス発散させるのもカラオケの楽しみ方ではあるしね」
ただ、社会人になってもアニメソング尽くしが受け入れられるのは、家族だとか、気の知れた仲間とカラオケに行った場合の話であって、これが合コンだったりすると、間違いなく引かれるし、浮いた存在になる事請け合いである。
「ボクはお兄ちゃんと一緒に『夢ヶ崎恋歌 』を歌えて楽しかったよー」
「初めてのデュエットだったけど、ミオ、上手に歌えたね」
「そう? テレビで何回も聴いてて覚えたからかなぁ」
「ああ、あの九時前の天気予報で?」
「うん。それそれ。だけど二番はちょっと失敗しちゃったよ」
「天気予報の時間内じゃ、一番のサビまでしか流れないからなぁ。今度CD買おっか?」
「いいよぉ、そこまでしなくてもー」
ミオはそう答えながら、苦笑いを浮かべた。
かような反応を見るに、この子にとっては、あの曲はあくまで俺とデュエットしたいがための作品であって、特別な思い入れなどは一切無いようである。
CDが欲しいほど気に入っているなら、あの天気予報を見ている時点で、購買欲が湧いてきているだろうし。
それにしても、この夢ヶ崎恋歌みたいな、男女が交互に歌うデュエットの歌謡曲、最近とみに減ったような気がするなぁ。
ヒットチャートの上位に来ないないから知らないだけで、実はひっそりとリリースされているのかな?
俺が学生の頃に観ていた深夜放送の某音楽番組だと、昔はロックやJ-POPにまぎれて、演歌なんかもランクインしていたもんだが、もうそういう時代じゃなくなったのかねぇ。
「柚月さん」
ぼんやりと考え事をしながらお茶をすすっていると、レニィ君が隣の椅子に座ってきた。
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