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30.さらば、リゾートホテル(12)
――そして迎えた翌日。
俺たちは少し早めに起きて朝食を取り、早朝からでも営業してくれていた売店で、お袋に送るためのみやげ物を買った。
買ったおみやげをその場で包装して、配達の手続きまでしてくれたのは、さすが観光地のリゾートホテルらしく、細やかなサービスが行き渡っている。
突然、俺から荷物が届いて不審に思われるのも何だから、お袋には後でメールを送っておこう。
「ミオ、忘れ物は無いかい?」
「うん、大丈夫。全部リュックサックに入れちゃったよー」
客室に戻ってきた俺たちは、昨日のうちにあらかた済ませておいた帰り支度の仕上げを行い、あとはチェックアウトの時を待つだけになった。
「この景色ともお別れだなぁ」
当分は見納めになるオーシャンビューを目に焼き付けておこうと、俺はパノラマビューの窓を開け、ミオと一緒にベランダに出た。
ひとたび外に出ると、けたたましいセミの鳴き声と、穏やかな波のさざめきが混じり合い、二人の耳に届いてくる。
「楽しかったね……お兄ちゃん」
「そうだな。いろんな事があって、ほんとに楽しかったよ」
俺がそう答えると、ミオは少し悲しそうな表情を見せた。
「どうしたの? ミオ」
「うん。あのね……また、ここにお兄ちゃんと一緒に来れたらいいな、って思って」
その言葉から、ミオもこの島とホテルの事が気に入ってくれたのは分かる。
けど、そんな顔をする理由は何だろう。
もしかして、ミオはお金の事を気にしているんじゃないだろうか。
たぶんそうだ。ミオにこのホテルの宿泊予約が取れたと話したあの時、この子は嬉しがると同時に、俺が無理していないかの心配をしてくれたんだよな。
だから、またここへは来たいとは思うけど、俺に無理はさせたくない気持ちの方が強くて、無邪気におねだりはできないでいるんだろう。
あるいは、施設にいた自分は俺に迎え入れられた子だから、贅沢を言える立場じゃないと思って、気を遣っているのかも知れない。
もし、そんな負い目を抱いているのであったとしたら、俺の使命は、それを完全に取り除いてあげる事になる。
ミオは俺の大切な子供だし、家族なんだから、俺に対して、負い目から来る過剰な気遣いなんてあってはならないのだ。
だから、俺はミオにこう約束する事にした。
「よし。それじゃあ来年の夏、また二人で、ここに泊まりに来よう!」
「いいの?」
「もちろんだよ。ミオもまた来たいだろ?」
「うん、そだね。でも、お泊まりの予約を取るのってすごく大変なんでしょ? それに……」
「大丈夫だよ、俺が絶対に何とかする。予約の事も、お金の事も全部心配いらない。だから、また、俺と一緒にここへ来てくれるかい?」
ミオに向かって両手を開き、笑顔で問いかけると、ミオは目にいっぱい涙を溜め、胸に勢いよく飛び込んできた。
「お兄ちゃん、ありがとう……」
「よしよし。また来年も、楽しい思い出をたくさん作ろうな」
その小さな体を全身で受け止めた俺は、何度も何度もミオの頭を撫でる。
この二人っきりの甘い時間が、ずっと続けばいいのに。
お互いがそう願っていても、無情なことに、やがては終わりが訪れる。
無情であるからこそ、一旦は幕を閉じてしまう、この二人だけの時間を再び手に入れるために、俺はミオと約束を交わした。
来年もまた、この島の、このリゾートホテルへ一緒に遊びに来ようと。
その約束を果たすために、自分が出来ることなら何でもやってみせる。俺はそう心に決めたんだ。
かわいいミオの笑顔と喜ぶ顔を、もっとたくさん見たいから――。
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